第60話 唯一の同級生ママ

公園や子育て広場で出会い、連絡先を交換したママ友はみんな30代だ。同級生は、学力レベルに関係なく大学に通っている。大学全入時代の私たち世代は、女性だって将来のことといえばまずは就職を考える。結婚?働いてみないと、考えられないというのが正論だろう。


そんな中、久しぶりに会ってみたい人が居た。成人式の招待状をSNSにアップしたことをきっかけに、私の結婚を知り激怒した友達。ではなく、その友達の友達。その子も、私と同時期に妊娠が発覚。できちゃった婚をしていたのだ。twitterやブログでは、お互いに離乳食や夫の話などを質問し合っていた。


共感出来る相手が欲しい。もっとリアルな子育てや結婚生活の話がしてみたい。自分から約束を取り付けたのは、産後初めてかもしれない。約束した日は、台風が接近するという予報で焦ったがいつの間にか低気圧に変わった。


ところが、当日約束の時間になっても彼女は来ない。時間は決めていたが、正確な場所は決めていなかった。ケータイがあると、約束の詳細を決めることをついサボってしまう。赤ちゃん連れだし、トイレ問題かな?と思いのんびりベビーカーを押しながらショッピングをしていると電話が鳴った。ケータイを忘れたのだと言う。今までなら、ちょっとイラッとしたかもしれないがここでも彼女と共感してしまった。


「私も、つい最近ケータイ2回自宅に忘れちゃった。しかも、電車に乗った時に限ってだよ。」

オムツに着替え、ミルクにおもちゃ。コンビニで簡単には手に入らない育児用品の支度に神経を注ぐと、必需品のケータイが疎かになる。私は、謝罪する彼女を慰めているのか、過去の自分を慰めているのかわからない始末になっていた。


彼女は、本当によくがんばっていた。若くして結婚すると、私のように親の手を借りたり、金銭的な援助を受けている場合が多い。しかし、彼女は自力で生活を支えていた。夜中、息子を寝かしつけてから居酒屋でアルバイトをし、土日は派遣に行くこともあるというのだ。


夫が残業が多く倒れそうなのを見れば、子どもが生まれたばかりでも転職を勧めた。倒れる前に手を打たなくてどうする?確かに、その通りだがなかなかその選択は出来ないと思う。


そんな中でも、家族のお楽しみ作りも忘れない。葛西臨海公園や上野動物園、交通公園など、安く一日過ごせるスポットを上手く活用しているようだ。


「3人で、家を借りて暮らすにはいくらかかるかな?」

と聞けば、率直に答えてくれる。

「家賃+光熱費+ケータイ代で12万くらいはかかるよ。だから、家賃にもよるけど20万+αがあればいい感じかな?」

貯金を出来るように、やりくりする指針まで示してくれた。


自分が働いているからと言って、それを強要することもない。私が、親に頼って育児をしていることを羨ましいとも言わない。これって、実はなかなか出来ないことなのだ。私は、飄々と育児をこなし家計を支える彼女に憧れた。


他人と比べず、淡々と。それが、結婚生活でも子育てでも大切なキーワードなのだろう。



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