第56話 本音ママトーク
黒ぶちメガネのママとは、随分親しい間柄になっていた。「今日、うちに来ない?」
と急に誘われることも何度もあった。誰かに話さずにはいられないことがあったのだろう。
「ねぇ、聞いてよ。昨日さ、旦那の親が朝から来るって言ったんだけど、何時に来たと思う?」
予定外に早く来たことを言いたいんだろう。
「そう言うからには、9時とか?」
ママ友は、首を大きく横に振った。「7時50分だよ。ありえなくない?まだ、眉さえ書いてなくてさ。私、まろ眉のままな訳…」
私なら、「まだ寝てました。」の体で、居留守を使うかもと言ったら大爆笑。
「この間、いつもとは違う子育て広場に行ったわけ。最近、お出掛けしないと寝てくれなくなってきたしさ。家で二人きりだと行き詰まるし。」
たしかに、そうなのだ。1歳になると、急にお昼寝が減り、家ばかりにいるとグズグズする。私は、自転車に乗せると機嫌いいからそうしていると伝えた。
「春馬くんでも、そんなことあるんだ。」
うちの子だけじゃないんだということを、ママたちは確認し合いたい。
「それで、そこの広場はどうだったの?」
そこから、永遠にその子育て広場のダメなところが列挙されていく。スタッフのおしゃべりから、日当たり、狭さ、おもちゃの少なさ。そして、ママたちの輪がすでにできあがってることのやり辛さ。5つ以上の広場を巡ったからこそ、わかることもあるのかもしれない。
「私も、広場に行って嫌な思いした時あったよ〜」
ママ友は、嬉しそうに身を乗り出して来る。「なんかね、旦那の昼ごはんの話になったの。忙しいから、レンジでチンで入れるだけ…とかは、まだわかるじゃない?」
うんうんと、大きく頷く。
「でもねその中の一人が、前日の夕方に卵焼き焼いて、レンジでチンしたおかず詰めて冷蔵庫にお弁当入れとく。うちの旦那、お腹強いからっていうわけ。怖くない?」
食べる時には、18時間以上が経過したお弁当。
「そんなくだらない話を、子どもに目もくれず話してるわけ。お宅のお子さん私の膝の上に居ますけど…的なね。」
「人種が違うね〜」とこれまた黒い笑いが、新築のモデルルームのような家を満たしていく。
子どもたちは、カラフルな柵の中で個々に積み木やらぬいぐるみやらで遊んでいる。
「子育て広場もいいけど、これから夏になったら行くだけで汗かいちゃうよね。どうしよう。」
歩いて5分のところにある市民センターの親子の集まりは、月1しかない。
「市民センターも、1時間数百円で借りられるみたいだけどね。中学生の時とか、クリスマス会に使ったことあるんだ。」
地元民ならではの情報として軽く言ったつもりだったが、すぐに実現の方向へ話しが進む。旅行代理店で、店長まで上り詰めバリバリ働いていただけのことはある。実行力がすごいのだ!
この後、数回この市民センターを借りての子どもを遊ばせる会は開催されたが、これが私たちの中を裂いた。大人数での集まりになってはじめて、お互いの感覚の差が露骨に現れてきたのだ。
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