第57話 男の子の初節句

早生まれの子どもの初節句は、1歳を迎えた翌年に行うのが通例らしい。記念の写真を撮ろうか、兜を準備しようか考えていると、私の父は、5000円程度のお土産のような兜を薦めてきた。義母は、「家に立派な兜があるのよ〜」

と何度もアピールしてくる。


お雛様なら、何が何でも買ってあげただろうが、兜は初節句の後お蔵入りになることもしばしばあるという。私は、義母の話しに乗ることにした。「お義母さんに、初節句の時に兜を飾っておいて貰えるか聞いてくれる?」

夫からお願いしてもらうことにした。すると、春馬がパンケーキが好きだ知った義母は、たくさんのパンケーキを焼いて待っていてくれた。


春馬は、人見知りするどころか、1歳と指を立てて見せたり、バイバイと手を振ったり、カエルの歌をおもちゃのマイクを持って歌ったりと愛想がいい。義父は、喜んでたカメラのシャッターを切った。パンケーキも、3枚もペロリと平らげた。


しかし、春馬が伝い歩きでテレビまで歩き、ペタペタ画面に触れた途端義父の態度は一変。無言で、付けてあったアニメを消した。義母は、「ごめんなさいね〜この子たちの時も、こんなだったのよ。」

と息子相手にもこの対応だったことを主張。


お茶の時間も終わり手持ち無沙汰になると、話しをするしかない。義母が、「春馬くんとディズニーランドでも行きたいわ。」

というので、「ゆたかとはじめてディズニーランドに行ったのはいつですか?」

と夫の名前を出して聞いたところ、「高校生の頃だったな。」

とちんぷんかんぷんなことを言う。


「春馬くんは、ケーキ食べられるの?」

と聞かれたので、「まだ、生クリームのケーキは食べたことないんです。春馬のお誕生日には、パパがアンパンマンのパンケーキを焼いてくれました。」

と『息子さんいいパパしてますよ!』という体で話をしても、「あたし、そこまで出来なくてごめんなさいね。」

とへそを曲げてしまうので話しにならない。宇宙人と会話している気さえする。


お祝いを貰ったので、そのお金でおもちゃを選んでもらうことにした。近所に出来たばかりの西松屋があるのだ。義母は、「一緒にお買い物行けるなんて。」

と気分を取り直している。春馬がアンパンマン好きと聞くと、「ボールは、持ってる?ブロックは?お菓子って食べる?こんな可愛い洋服が安く買えるのね〜」

と手も口も止まらない。


結局、アンパンマンのボールとブロックを買って2000円をお支払い。義父は、「残りは、おやつでも買ってね!」

と言う。私が、残額を見てポカンとしていると義母が「お父さん、お祝いが3000円とでも思ってるのよ。ごめんなさいね。」

と耳打ちしてきた。


なんだか自分の父のケチさに呆れていたが、それを上回る相手を身近に発見。いちいちげっそりしても仕方ないので、帰宅早々台所に立つ。ウインナーのこいのぼりに、薄味のチキンライス、卵焼きで作るお子様ランチ。春馬の嬉しそうな笑顔を思い浮かべれば、なんだって出来そうな気がした。



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