第46話 恩師との再会
去年の文化祭は、行きたかったけど行かなかった。私は、千葉からわざわざ都内の私立の女子校に通っていた。それも、特進クラス。三年間授業料免除しておいてもらって、短大に進学。その上、短大も中退。いつの間にか、できちゃった婚。会わせる顔がないとは、まさにこういうことを言うのだろう。
それでも、元担任が会いたがっていたと友人が教えてくれた。年賀状は、変わらず送り続けていたので気にかけてくれているのかもしれない。春馬も連れて、文化祭に行ってみよう。しかし、その日は生憎の雨。迷ったが、母が春馬を預かっくれると申し出てくれたので、夫に母校を紹介することにした。
二年ぶりに、いつもの駅に降り立った。駅ビルが建ち、好きだったパン屋はなくなり、随分様変わりしていた。私の状況の変化も、差し支えないと思わせるほどの変わりっぷり。人も街も、絶えず変化しているのだ。
それでも、母校は変わらない。赤レンガのレトロな雰囲気が懐かしかった。校舎に入ると、わりとすぐ元担任にあった。「どうしたの?」
久しぶりの挨拶に似つかわしくない謎の一言。先生は、何も変わっていない。「久しぶりに来たので、挨拶に来ました。」
「そうじゃなくて!びっくりしたよ~年賀状!こっちが驚かそうと思って結婚報告したら、こっちが驚かされちゃった。」
先生のテンションが上がっているのが、見て取れる。子どものように、ゆらゆら揺れて落ち着かない。
「私も充分驚きましたよ。先生も急に結婚してて。」
「ちゃっちゃと決めちゃったんだ!」
いやいや、それは失言でしょ。奥さん聞いたら怒るんじゃない?私は、とりあえず笑って流した。
「ところで旦那さんと来てるんだって?」
「そこに居ますよ。」
私は、手招きして夫を呼び寄せた。
「どうも~私、すずかさんの高校の時3年間担任だったんですよ。」
「あっどうも。」
急な挨拶に、夫が慌てている。しっかりしてよね。
「すずか!あっ!すずかさんはどうですか?」
随分、大雑把な質問に夫は戸惑って固まっている。「おもしろい子です。」
すると、先生は用意していたかのように、私について語り出した。
「すずかは高校の頃は、ほわほわしていましたが、案外芯がしっかりしていて言いたいことはズバッという子でした。見た目より、しっかり者で、大人っぽいんです。」
俺はよく生徒のことを知ってるぞという風だった。娘を取られたお父さんの気分だろうか?
「でも、4組で最初に結婚するのがすずかだとは思わなかったよ。しかも、ママにまでなって。てっきりバリバリ働くのかと思ってた。」
それには、私も素直に同意せざるを得ない。学生時代は、衝突することもあったが私のことをよく理解していると思う。夫と出会うまでは、恋愛をしていても結婚について深く考えることはなかった。
「うちはさ、奥さんは子ども欲しがってるけど、俺はまだ自信がないから出来たらいろいろ教えてください。子育ての先輩だからね!」
「がんばってね!」より嬉しい一言って、多分これだ。先生は、よく分かっていた。
一流大学に行くこと、大手企業に就職すること。高校生の頃の私が描く理想の未来は、現実を知らないからこそ描ける絵空事でしかなかった。今の私は、その道からは大きく外れている。でも、大丈夫。この道は、未来にちゃんと繋がっている。ここは、空想の世界ではないのだ。
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