第8話 主治医との出会い
その後も、私の心臓の痛みと激しい動悸は続いた。おそらく、一時的に失神しても、赤ちゃんへの影響はないはずだというのが、循環器と産婦人科の先生の見解だ。安静にして、何かあったら、来るようにとだけ言われていた。何だかお互い専門外のような話しっぷりで、気分が悪かった。
そんな折に、また激しい動悸があった。妊娠中では、心臓の手術や投薬などは、ほとんど出来ない。そのことは、説明を受けて理解していたが、家でやり過ごすことを困難に感じ、また救急外来へ向かった。
この日、循環器の先生は命の危険が迫る重篤な患者の治療に当たっていた。私は、随分と待たされるはずだったが、産婦人科の当直の先生が、心配して見に来てくれた。
「WPW症候群は、いつからなの?」
「心臓はどのあたりが痛い?動悸の感じは段々?それとも、急に?」
「ここで産むんだよね?市立病院の循環器の先生とは、もう連携が取れてるのかな?」
「唇が、カサカサで脱水が酷いね。もしかしたら…」
みんなが、面倒くさがって、見ないふりをしていたことに前向きに取り組んでくれた。すべての負の可能性を取り除こうと努力してくれた。若くて、明るいスポーツマンのような先生だった。若いことを、経験値が低いと見積もる大人たちもたくさんいるが、新しい知識を学んだばかりであり、やる気は年輩の先生には勝るというメリットもある。
私に、とってこの先生は救世主だった。「とりあえず、随分脱水が進んでるね。ごはんは食べられなくても、飲み物は取らないとね。一日500mlも取れれば、動悸も落ち着くかもしれない。」
そう分析し、ただの生理食塩水の点滴生活が始まった。顔色も明らかによくなり、動悸も減っていった。
少し症状が落ち着くと、このひと月ばかりの話しをしに、パニック障害を診てもらっている精神科の先生のところへ行った。動悸が、パニック障害のせいである可能性も消しておきたかったからだ。私には元々不正脈があったからそこに気をとられるが、つわりで悩んでいる話と唇の状態だけで脱水も疑うという話しだった。この時も、まだボロボロだったのだ。
そして、精神科医は、私に言った。「主治医を変えられないの?」
「それが、その先生が僕が当直で担当したから責任持って僕が担当するよ。基本的には、初めにかかった医師が担当するんだけどね。って。」
精神科医は、大きく笑顔で頷いた。
私は、つわりと動悸の一件で、いい主治医に巡り会えたのだ。私に、嫌味を言う他の医師の対応を一蹴するエネルギーがこの先生にはあった。不幸中の幸いとは、まさにこのことだ。現在、やっと妊娠4ヶ月。毎日点滴生活から、足を洗ったところだ。
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