第5話 唾が止まらないつわり
つわりと聞くと、ドラマなどでお馴染みの急に気分が悪くなりトイレに駆け込むというシーンを思い浮かべるだろう。でも、食べないと気分が悪くなってしまう食べづわりから、眠気がひどく起きているのも困難な眠気づわりまで症状は様々。十人十色。
私が、最初に悩んだのは、唾が止まらないつばづわり(よだれづわりとも)と呼ばれるものだった。これには、妊娠3ヶ月から出産直前まで徐々に落ち着いてはくるものの、常に悩まされた。
2016年現在は、ネットの子育てサイトでも取り上げられているが、私が出産した頃はメジャーではなく、個人のブログなどで悩みが吐露されていたくらいだった。吐き気がある時に酸っぱい胃液が上がってきたような感じの唾になり、量も飲み込むのが大変なほどに急増する。
私は、それを一日中ティッシュで受け止めていた。ティッシュ使用量は、一日で一パック。トイレットペーパーでいいと思い、使ってみたら唇の油分まで奪っていった。家族は、ありえない頻度でティッシュを買いにドラッグストアに走った。
寝ている時でさえ、唾は止まらず、ほとんど24時間自分の唾の世話をする生活。なんだか、自分を自分で介護しているような感じだ。私は、気分転換の散歩も買い物も、分刻みで吐き出したくなる唾が恥ずかしく、次第に引きこもりがちになった。
この頃に、出産を確認してもらった理不尽な医者の産婦人科は止めて、市立病院での出産を決定。決め手は、心臓病を診てもらうための循環器内科だ。後に、もっと大きなメリットが生まれることに私は全く気付いていなかったが…
そして、もちろん市立病院でも、つばづわりを治める方法を医師に聞いたが、「そんな、つわり聞いたことがない。医学的根拠が…」という主治医。
そして、もっと驚いたのは、産婦人科を取りまとめる医長の言葉。
「ちゃんとしたもの食べてるの?カップラーメンとか栄養がないものばっか食べてるから、こんなつわりに悩むんだろ!」
私が、何をしたというのだ!言い返したくて、堪らない。
実際には、私は母と同居していたのでつわりで吐くことはあっても、誰よりも健康的な食生活を送っていたと思う。消化のいい煮物や、味のわかりやすい肉野菜炒め、具沢山のソーメンなど準備してもらっていたのだ。たしかに、母が側にいてくれなければ、コンビニ弁当や、すーぱあのお惣菜に頼っていただろう。でも、若いというだけで、こんな理不尽な言葉を掛けられる筋合いはないのだ。
私は、何も言い出せず。理不尽さに、診察室で泣いた。すると、「妊娠中だから、ちょっとしたことで泣くんだ。」とブツブツ。
私は、最初の産婦人科で「プライバシーもあるから、結婚していない人は入れられない。」
と彼を入れてもらえなかった経験から、病院までは彼や母に付き添ってもらっていても、診察にはひとりで向かった。
バカにされたくなかった。私だって、ちゃんと出来るんだ!年なんで関係ないんだ!普段以上に、自分のことが自分で出来ないことにイライラしながらも、私は戦っていた。そして、負け続けていた。
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