第3話仮面家族会議

単身赴任の父には、母が電話で「実は…」と、私が妊娠したことを切り出した。そして、彼は彼で、病院での検査を終えて産むことを決めてから親に報告したそうだ。私には見えないところで、彼が泣いていたであろうことは容易に想像できた。

でも、私は彼に父親になってもらうしかないのだ。見えないものは、存在しないのスタンスで進むことにした。


家族会議は、我が家で行われた。私の父の圧力は、娘の私でも感じた。

「すみませんでした。」

ドラマのできちゃった婚と同じ下りだった。真意がどうであれ、男側の親が謝るこれがスタートライン。

「つきあうということは、聞いていたから。」

父の気持ちは、この一言に集約されていたのだろう。つきあって一ヶ月ほどで、私は彼の家にあいさつに行き、また別の日には、私の両親と彼と4人で居酒屋で飲み食いしたのだ。会社で上の立場になるとやりがちな、父の上から目線の言葉がけにも彼は素直に応じた。これが、いい印象を生んでいたのだ。


「それで、大学の方はやめなくていいんですか?本当だったら、金銭的に独立してから家庭を持つのが筋でしょう。」

彼の母は、息子のことよりも、大学のことを気にしているように見えた。

「今の時代、大学出てないと苦労しますからね。」

父は、静かに言った。

「卒業して、就職しなきゃ何も始まらないんだから。学費だけは、今まで通りご両親にお願いして。君一人分の食費くらいなら、俺が出すからさ。」

父は、言い切った。


「では、こちらの家で暮らしていくということで。」

やっと、彼の父は口を開いた。

「そのつもりでしたが。」

私に、意見を問うように父が目くばせをしてきたので、私はコクりとだけうなずいた。


そして、彼の父がおもむろにパンフレットを取り出した。

「これ、結婚式のパンフレット。東日本大震災で、建物の老朽化もあり今年閉館するらしく、通常の30%で式が挙げられるみたいで。よかったら見てみて。」

「私たちが、結婚式を挙げた式場も今年取り壊しが決まったんです。結婚式場も、不景気だから先は見えないとはいえ、今すぐなくなるところはねぇ…思い出の場所になるんだから。つわりも酷いみたいだし、産んでからでも遅くはないでしょう。」


一通り、予定調和の家族会議が終わった。私たちが何かを語る隙は、無かった。そして、彼の弟や私の母はただの置物と化していた。

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