魔王様は(書類から)逃げられない(ゲーム転生物)

@koori58

プロローグ

俺は運が悪い。そして要領も悪い。

他の人がああすればいいんじゃない、ってことが終わってから気づいたり、あるいは他の人がやってることが全然わからずに、何度も尋ねることもある。

ドンくさい奴だと思われてるのも仕方ないと思う。

だから、俺は人と喋ることはあまりせずに、ゲームをすることが多い。

病院の待合時間という暇な時間なら、尚更だ。

携帯電話の中に登録しているマイナーなレトロゲーム【エヴィルワールドアンソロジー】というゲームを起動させる。

主人公は魔王となって都市を発展させ、襲い掛かってくる人間の盗賊やら兵器、あるいは勇者と言った敵キャラを倒しつつ、開拓させるゲームだ。

昔あったからある、勇者と魔王の役職を変えただけで、中身は変ってないパターンのゲーム。

10年前以上のレトロゲームでも、そんなんだから、それだけ使い古されたものかとわかる。

指先で画面上にある十字を動かしつつ、主人公に指示を与える。

最初はまだ都市も広くなく、チュートリアルらしい宿屋や武器屋、開発室やら炭鉱などを言われるままに作っていく。

チュートリアルの主人公の補佐キャラは、昔のゲームらしくなく、普通に可愛い。

炎のように長い朱髪を後ろで束ねたポニーテールにしており、ぴしっとした黒いスーツ姿は秘書を思わせる。

まぁ実際、やってることは秘書なんだが。

赤い髪の間から細い羊の角が覗いたり、スカートの間から黒い尻尾が見えるのは種族が悪魔だかららしい。

秘書―――名前はモーゼル―――に言われるままに、初期に作るべき場所を作ってから、ふぅとため息をついた時に、ふと、パシィンと何かが弾ける音が響いた。

「ん?」

その音に気づいたのは俺だけじゃないらしい。

少し離れた場所にいた患者たちも、同じ音を聞いたのか、周りを見回している。

そして、またパシィン。

今度はさっきよりも鈍い―――、どこか重く、金属を思わせる破裂音。

嫌な予感がする。

さっきよりも慎重に見回そうとした瞬間、フッと電灯の明かりが消えた。真っ昼間、窓から差し込む光は明るいとはいえ、病院の中でいきなり停電?

そして、次の瞬間、いきなり、パアアンという先程よりも一際でか破裂音が響く。

一体が何が破裂したんだ?

周りを見回すが、破裂したものが見えない。それなのに喉元に灼熱感が押し寄せた。

熱い!

まるで焼けた鉄をおしこめられたような感覚に思わず、喉を触り、ぬるっとした感触と、何か鋭い物に触れた痛みをかんじる。

「………」

声は出せない。熱さだったものが、耐えようもない激痛へと変わっていく。

「大丈夫ですか! 意識はありますか!」

傍にいた看護婦が俺を見て、顔を青ざめて聞いてくるが、激痛がきつすぎて喋ることが出来ない。

ヒューヒューという音が、口からではなく喉辺りから出てるような気がする。多分、気のせいだ。気のせいにしてほしい。

指先にこびりついた赤いペンキは、どこかで塗り忘れたペンキなんだと教えて欲しい。

「せんせー!せんせー! 急患、お願いします。ガラスが喉部を貫通した患者がいます!」

だから、そんなことを堂々と言わなくてもいいから。そんなこと言われたら自分の病状がわかるじゃないか。

喉の激痛も、呼吸のつらさも、手足の謎の冷たさも、色々混ざって、俺は意識を失う。

あの時、咄嗟にかがんだり、身を守ればよかった。やっぱ俺はドンくさいという情けない自分に対するため息しかなかった。




そして、俺はベットから差し込む日光によって目を覚ます。

「おはようございます、マスター」

玉座の傍にはいつから待機していたのか、モーゼルが佇み、その手には分厚い百科事典みたいな書類が握られている。

「申し訳ないのですが、朝食前に見てもらいたい書類があります」

「……どうしてこうなった」


本当にどうしてこうなった



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