未知との遭遇
「やっとついた・・・」
あれから、5階まで行けるエレベータを探しまくった。隣の、と言われて隣のエレベーターに入ってみたが、同じく10階からのボタンしか無かった。側のエレベーター全て見てみたが、結果は同じだった。結局、隣のエレベーターではなく、隣のスペースにあるエレベーターホールだと気づくのは、そこのエレベーターホールにあるエレベータを全て確認した後だった。
そして何とか5階までたどり着いた時は、10分前にビルに着いたにもかかわらず、約束の時間まであと1分となっていた。
目的の場所は、エレベーターを降りたらすぐ目の前にあった。開け放ちのガラスドアの向こうに、ちょっとしたスペースがある。そこは無人で、机があり、その上に電話が置いてあった。ガラスドアの入口をくぐり、電話の前まで歩いていくと、そこには「御用の方は#123に内線をお掛け下さい。」と説明書きが貼られていた。
荒い息を深呼吸して整える。いち、に、さん。心の中で深呼吸に合わせて数を数える。もう約束の時間になってしまったが、丁度といえば、丁度約束の時間なのだから問題ないはずだ。
「えと、1,2,3と。これで良いのかな?」
受話器をもって番号を順番に押し、待つこと少し。流れていたよく聞くクラシックが途切れると、若い男性の声がした。電話の向こう側は、男性の声だけではなく色々と騒がしかった。
「はい、スゴイシステム開発です。」
「あ、あの!ヤルゼ派遣から来た、中野ですけど……!」
「ヤルゼ派遣の中野さん?少々お待ちください。」
そして、少し静かになったかと思ったら、小さな声が聞こえてきた。どうやら保留にせずに、通話口に軽く手を当てているだけらしい。
―――おい、派遣頼んだの誰だ!もう来たぞ!
―――え!もう来たの?まだテスト機のセットアップ終わってないんだけど!ちょっと相手して時間稼いでくれ!
―――今まで何してたんだよ!こっちも時間が無いんだ、早くやってくれよ!
―――しょうがないだろ!バグ報告が上がってんだから!昨夜上がったバグだってようやくさっき潰したんだよ!
訳の分からない言葉が飛び交っているが、何やら慌ただしいことは確かだ。もしかして早かった?時計を確認するが、約束の時間を3分ほど過ぎたところだった。
「もしもし?」
突然声のボリュームが戻り、慌てて返事をするエリ。
「え、あ、はい!」
「ただ今担当の者が迎えに行きますので、もう少々受付でお待ち下さい。」
電話の向こうの男性は、特に気にする訳でもなく言うだけ言って電話を切ってしまった。相変わらず電話の向こう側は騒がしかった。
それから電話の前で5分ほど待っていたら、怪しい雰囲気の男性がやってきた。
「お待たせて悪いね。」
上から寝癖でボサボサの頭、無精ひげ、ヨレヨレの服、サンダル履き……。どう見ても社会人というよりは無職のオジサン、といった風情だ。エリがじっと見つめているのに気が付いたのか、自分の身なりを見直してか口を開く。
「ああ、ごめんね。今の時期、少し立て込んでてね。昨日も徹夜だったから。」
バレバレの欠伸を噛み殺す。え、徹夜?昨日も?と、軽くパニックに陥いる。そんなエリの頭の中はお構いなしに、その男性はこちらへどうぞ、と来た道を引き返していく。
慌ててエリもその後に続いた―――。
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