第70話 刻に縛られた者/見捨てられた者⑬

 だがゴートに追いつくのは容易かった。

 あるいはルナも仮にもシードを体内に宿す者。相応に運動能力は高いのかもしれない。


「そいつは渡せないぜ! とりゃー!」


 ルナがゴートの走る背中に向かって飛び込み、ドロップキックをかました。


「うぉっ!」


 ゴートが前のめりに転ぶ。

 その際にシードも落としてしまっていた。

 それをルナが余裕の表情で拾う。


「悪いなゴートさん。こいつは私のもんでさ」

「うう、このクソガキめぇ。大人を舐めやがって……」


 ゴートが恨めしそうにルナを睨んできた。

 それにルナは少しむっとしてしまう。


「初めっからちゃんと協力してくれたら、別にアンタの分だって確保するつもりだったんだぞ。それなのに全然戦う気ないし、私を盾にしようとするし。挙げ句に横取りまでしてさ」


 ルナは取り返したシードをボールのように掌で遊ぶ。


「ふん、後は一人で頑張るんだな」


 そして外に通じる方へ向かって歩き出した。


「ま、待ってくれ」


 ゴートが先回りしてくる。

 そして地に額をすり付けるように下げて来た。所謂、土下座と言う奴である。


「頼む、そいつを譲ってくれ。今までのことは全て謝る。俺が悪かった。でもそいつがねえと俺の娘の命が危ないんだ!」

「何だそりゃ?」

「俺の娘は病気で、高額な費用のかかる手術をしなくちゃ治らねえ。それでどうしてもそいつがいるんだ! 頼む、この通り」

「……そう言われてもな」


 正直、ルナはもうゴートのことはあまり信用していなかった。

 短時間とは言え、利用されて挙げ句に裏切られたのだ。それでこんな都合のいい話を信じろと言うのか。

 だがそれでも気になってしまう。


「その病気の名前は?」

「へ?」

「だから娘さんの病気の名前は? 言えるだろ、それくらい」

「えっと……確か……」


 ゴートは慌てた様子で空を向く。


「白気性肺何とか症候群……」

「わかんねえよ、それじゃ」


 ルナは自分でも驚くほど冷たく言い放っていた。

 しかしゴートは引き下がらない。


「とにかく本当なんだ。ほら、これ写真!」


 ルナは差し出されたモノクロの写真を見る。

 そこにはゴートと女の子が幸せそうに映っていた。


「母親はどうした?」

「女房は病で逝っちまってな。今は娘が同じ病気だ」

「……だったら名前くらい覚えておけよ」


 ルナはそんなことを言いながらも写真に眼を奪われてしまう。


 ――家族か。


 ゴートの言うことを信じていいかはわからない。

 これだって嘘の可能性の方が高いのだ。


「チッ……」


 ルナは持っていたシードを見て舌打ちをする。

 そしてそれをゴートに投げた。


「仕方ねえからやるよ」

「……本当にいいのかよ?」


 受け取ったゴートの方が驚いていた。


「……別に。どうせもう一個ゲットすればいいだけの話だ」

「お嬢さん……」

「わかったらさっさと失せな。言っておくが盾にされたり裏切られたりしたことまで許した覚えはないからな。視界に入ってくんじゃねえぞ」


 ルナはそう言って、ゴートに背を向ける。

 そしてまた採掘場へ戻る道を歩くのだった。

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