第43話 殻の外③

 そして夜が来る。


 車窓からは本物の月と星が空一面に映っていた。

 ドーム都市からは絶対に見られない光景である。


「絶景だな」


 シャワーを浴び終え、パジャマ姿のルナが外の景色を見て感動している。

 ルージュも青いパジャマを着て、それを見ていた。

 いつもならそんなものは着ないが、ルナに何となく合わせた。


 ――意外と肩の力が下りるものね。


 ノワールのライダースーツでも機能性は変わらない。


 あのライダースーツも特注で、シードを素材に作られている。故に超力のある者が使えば、その場に適した状態にスーツが変化するのだ。

 暑い地域なら通気性を上げ、寒い地域なら防寒仕様に独りでになる。寝るときも、それに適した状態にはなってくれるのだ。


 しかしやはりそれを着ているかいないかで気分はまるで違うものだ。


 ルージュには、ずっと今まで張りつめていた気が少し解ける感覚があった。

 とは言え、それもカタストルが出ないと言える列車だからこその気の緩みでもあるのだが。


 空いっぱいの星は綺麗であった。

 ドーム都市でも似たような空は毎日見ていたはずなのに、何故か感動する。

 偽物と本物の違いか。


 ドーム都市の方は空気が淀んでいるせいもあるだろう。どうしたって本物の自然には適わない。何というか安っぽいのだ。


「こんなの見てると、本当に信じられないな。地上に人が住めないなんて」


 ルナがそう言って窓から目を離してベッドに飛び込む。


「だってドーム都市より、よっぽど澄んだ空気じゃん」

「人間がいないおかげね」


 ルージュもベッドに近づいていく。

 その途中で灯りを消した。

 オレンジ色の小さい照明だけが残る。暗い部屋の中で、星の光が二人を照らす。


 ムードが変わった。

 ルナの隣に腰を下ろした。

 そして包帯の巻かれた肩に優しく触れる。


「相棒、どうしたの?」

「……今日は私がしてあげる」


 ルージュはルナに体を寄り添わせる。


「貴方も超力を使うんだから、そうすれば傷の回復は早まるわ」

「でも私は相棒の喘ぐ姿を見るのも好きなんだけどな」

「いいから。それも後でね」


 ルージュがルナの服のボタンを外していく。それが終わると、ブラのホックを外した。


 ルナの形のいい乳房が現れる。

 そしてズボンを下ろさせる。


 最後の下着の上を軽く触った。


「ぅん……」


 ルナの切なそうな声が聞こえてくる。

 ルナのパンツの両側にあったヒモを解く。

 するとほぼ自動でそれはベッドの上に落ちて、ルナは完全に裸となった。


「ねえ、相棒も脱いでよ」


 ルナが上体を起こして耳元で囁いてくる。


「わかってるわよ」


 ルージュはまずはズボンを脱ぎ出す。上着はルナがボタンを外してはぎ取ってくれた。ブラはしておらず、最後にパンツの側面にあったヒモを外すとルージュも裸になる。


 ベッドの下の方にルージュは移動する。

 ルナの足の指が視界に入る。


「ん……」


 それを口に含んだ。ルナの右足の指を舐める。

 親指を口内に入れて赤子のようにしゃぶる。


 ゾクゾクする。


 ――これ好き。


 征服されているという感じがたまらなくルージュを興奮させる。

 こうして他人の足の指を舐める行為そのものが、ルージュの秘めた性癖を刺激するのだ。


 親指を口から離すと、足の指と指の間に舌を入れる。それを全ての隙間に入れた。


 親指以外のものも一つ一つ丁寧に口に含む。

 唾液をたっぷり含んで、しゃぶった。

 ジュプジュプと淫靡な音が聞こえてくる。


 それが終わると、姿勢を変える。


 ベッドのルナに上から覆い被さった。

 ルナの包帯のされていない右の腋に、ルージュは舌を流し込む。


「あぅ……」


 ルナが可愛らしい声を出す。たまらず、そこから二の腕の裏まで丹念に舌を滑らせた。


 汗を含んだ少し塩っぽいルナの味がする。

 それが愛おしかった。愛している気になってくる。


 それを終えると、ルナの顔と向き合う。

 次は胸にいくつもりだった。


「相棒」


 唐突に呼ばれた。


「何?」

「キスしてよ」

「いいわよ」


 ルージュが唇をルナの唇に接近させる。


「……ルージュ、好きだよ」

「!?」


 急にルナの方から口を付けてきた。

 不意打ちだった。

 しばらく唇同士を合わせて、離す。


「ねえ、もっと」

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