第42話 殻の外②

 列車は相も変わらず自然の中を運行していた。

 照りつける太陽の下、車窓からは緑の景色が広がるばかりだ。


「ルナ、好きなもの頼んでもいいわよ」


 ルージュがプラスチック製の料理のメニュー表をルナに渡す。


「え、いいの?」

「ええ、私は何でもいいから」

「じゃあお言葉に甘えて」


 らんらんと上機嫌なルナは嬉しそうにメニューを眺める。


「今日は相棒、妙に優しいな」

「別に。もうここの料理には飽きてんのよ」

「そういうものかね」


 ルナが「これとこれとこれ、あと――」と延々と料理名を言っていく。

 ルージュはそれを一通り聞いて確認した後、ルームサービスに室内電話をかけるのだった。



 三十分もしない内にピンポンと室内のインターフォンがなる。


 ルージュが見るとルームサービスの人間だった。白の台車が近くに置いてある。

 個室のドアを解放して通れるようにした。

 ルームサービスの男は「失礼いたします」と台車を押して中に入ってくる。


 そして台車から料理を出して次々にテーブルに並べた。

 それを手際よく済ませ、颯爽とドアから出て行くのだった。


 色とりどりイタリアンを中心とした料理が並ぶ。

 それを見てルナが口を開いた。


「すげーな。さすが最高級の待遇ってやつか」

「慣れた人間にとっては、これくらいしか楽しみはないのよ」

「いや廃工都市では絶対に見られそうにないほどおいしそう」

「あそこじゃ無理ね。私はあっちのチープな味もそれなりに好きだけど」


 椅子に座りながらルージュはそう言った。


 ルージュの視線がチラリとルナの肩に向かう。

 そこには包帯がグルグルと巻かれていた。


「…………」


 それは昨日、ルージュを庇ったせいで創られた怪我である。

 ルージュとしてはずっとそれに罪悪感を感じている。己の不甲斐ない戦いが原因なのだ。


 まだルナの左腕は上手く動かないようで、右手だけを動かして料理に手を出そうとしている。


「……ルナ」

「ん、何?」


 ルナがキョトンとした表情で尋ねてくる。

 ルージュは若干緊張しながら口を開いた。


「た、た、食べさせて上げる」


 これを言うのは正直、恥ずかしかった。


「いいよ別に、普通に食べられるし」

「その、肩、痛むでしょ。だから、あの……」

「そっかー」


 ルナは「エヘヘ」と笑顔で椅子をルージュの隣に持ってくる。

 二人で並ぶ形になった。


「じゃあピザとか、片手じゃ食いにくいものはお願い」

「はい、じゃあ――」


 ルージュがピザの切れ端を一枚取ってルナの口に近づける。


「あ、あ、あーんしなさい……よ」

「相棒、自分からやっといて恥ずかしがるなよ」


 ルナが半笑いでそう言った。


「こんなの初めてなんだから仕方がないでしょ」

「そうだね~」


 ルナがそれをパクリと口に入れた。

 むしゃむしゃとそれを美味しそうに頬張る。


「いや格別だね。次はフルーツがいい」

「それは片手でも大丈夫でしょ」

「いいじゃん、あーんするから」

「まあ、いいわよ」


 ルージュがカットされたメロンをフォークで刺し、ルナの口に持って行くのだった。

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