第31話 救世の胎動⑤
ルージュは予定時間より少し早くアパートを出た。気持ちが昂ぶっているせいで、落ち着かないのだ。
北の廃墟前、集合場所は先程と同じである。
ルージュが行くと、すでにトルエノがそこにはいた。壁に背を預けている。
「時間にはまだ余裕があるけど、行く?」
「ああ。ここでじっとしていても仕方がねえ」
トルエノが壁から離れてそう言った。
カタストルは夜行性だ。昼間はあまり活動をしない。
またその性質のせいで夜以外は超力が活発ではない。
故にノワールの超力での探知が難しいのだ。
現在の時間は十七時四十分。
このくらいであれば探知は可能だろう。
ルージュとトルエノは侘しい廃墟の中を歩く。
ルージュが先頭で、それにトルエノが付いてくる形だ。
目的地は旧研究所。
ワタナベと言うカタストルと戦い、ルナと出会った場所でもある。
かつてはアークの者が使っていた施設、カタストルには居心地の良い仕様になっているのだろう。
廃ビルに囲まれた道の途中でルージュが口を開く。
「戦闘の指揮は私が取るわ」
「理由は?」
「単純にこの辺の地形が私の方が詳しいから。これから行く旧研究所も前に調査したことがあるの。アンタの方は南地区担当だから土地勘はないでしょ。文句ある?」
「あるね」
ルージュは足を止めて、振り返ってトルエノに顔を向ける。
トルエノも歩みを止め、ルージュの死線を真っ向から受けた。
「……私とアンタではキャリアもほぼ同じ。これ以上に合理的な理由があるかしら?」
「気に入らねえ。足を引っ張られるかもしれない相手に指揮まで譲るなんて、自殺と同じにしか思えない」
「何ですって? もう一度言ってみなさいよ!?」
「何度でも言ってやるよ、カスの指揮のせいで死にたくはない」
「あぁ? んだとクソゴリラぁ!」
煽られたルージュはドスの利いた声を出してしまう。顔に青筋が浮かぶ。
対してトルエノは獲物を釣り上げたかのように微笑んでいた。
「どうだ、ここはお互いの力を確かめ合うって意味でも、ヘッドショットで決めないか?」
ヘッドショット、ノワール同士で行われる模擬戦闘の一つだ。
ルールはシンプルで、相手の頭を壊した方の勝ち。
ノワールなので再生するから問題はない。
むしろ再生するカタストルを相手にするのだから、ペイント弾などのものよりよほど実践的だ。
ただし派手に動き、周囲に危険が及びやすいので滅多なことでは行われない。流れ弾で一般人に死傷者などが出たら洒落にならないのだ。
しかし場所が場所なので今回はその心配はない。
「いいわよ。肩慣らしにはちょうどいい」
「決まりだな」
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