第30話 救世の胎動④

 ルージュはアパートのベッドに腰掛け、通信デバイスでカプリコルヌの情報を閲覧する。


 黒鋼ノ磨羯――雄山羊の頭を持ったカタストル。


 とは言え、情報は極めて少ない。人間態である時の外見はあっても、カタストル化した時の情報が少なすぎる。


 情報がない――ここから読み取れること、つまりこれは戦って生きて帰った者がいないということだ。レッドリストに載るレベルであれば、それもよくある。


 ――強い。


 直感的にそれがわかる。

 生きて帰る方が難しい。

 それでも勝たなくてはならない。

 絶対に。ルージュの目的のために。


 ――こんなところで躓いていたら、ウィリアム=レストンには……。


 それを思うと胸中に秘めたものが興奮する。

 闘志が燃え盛る。


 ドアがカチャリと開いた。


「ただいま」

 ルナが帰ってきたのだ。


「悪かったわね。一人にさせてなんて言って」

「いいよ。大勝負の前なんだろ?」

「……そうね」


 大勝負、確かにそれが相応しい表現なのだろう。

 ルージュの過去の任務と比較しても三本の指に入る案件であることは間違いない。


「ルナ、わかっていると思うけど今回はここで隠れていなさい」

「一緒にいたら邪魔か?」

「そう。本来狙われているアンタを一人にさせとくのは得策ではないんだけど、この任務に関しては連れて行くリスクが高すぎる」


 見える範囲に置くことで、不測の事態もカバーでき高い安全を維持する方針だった。


 しかし今回ばかりはそうも行かない。

 守ってやる余裕がないのだ。


「わかった。そう言うことならそうするよ」

「アンタのデバイスにここの隠し通路のマップを送るわ。もしもの時は使って」

「そんなのあるのか」

「一応はノワールの拠点の一つだからね。攻められることはないと思いたいけど」


 ルージュは通信デバイスを操作する。そしてルナの取りだしたデバイスに隠し通路のデータを送った。


「相棒」

「何よ?」

「あのさ……いや、頑張れよ」


 ルナは苦笑いを浮かべてそう言うのだった。

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