EP4
第27話 救世の胎動①
EP4 救世の胎動
「いよいよ明日だな」
ルナが嬉しそうにアパートの窓から外を見て言った。
「そうね。持って行くものがあるなら、荷物はまとめておきなさいよ。いらないものは置いていけば組織が勝手に処分してくれるから」
ルージュはそう話すと、キッチンでコップに水を汲んで飲む。
明日はドーム都市の移動日だった。
この廃工都市ウーノともお別れになる。
ピリリピリリ――と、通信デバイスの呼び出し音がなった。
ルージュはレザージャケットの内側から、黒い長方形のデバイスを出してその通信を開く。
「何よ、サイファー」
「ルージュ、任務だ。至急、北の廃墟前まで来い」
「珍しいわね、至急なんて言葉」
「今回はウィリアム=レストン絡みの案件だ」
「!?」
サイファーの一言でルージュの眉間に皺が寄る。顔が一気に険しくなった。
心中穏やかとは言えない。
「わかった」
短めにそう言って、ルージュはさっさとデバイスをジャケットの内ポケットに入れた。
「ルナ、すぐに出かけるわよ」
「……はいよ」
ルージュの鬼気迫るオーラを感じてか、ルナはそう返すだけだった。
*
ルージュは北の廃墟前に早足で歩く。見慣れた歩道がやけに長く感じられた。今は一秒でも早く廃墟に辿り着きたかった。
ルナもそれに何とか付いてくる。
「なあ、もうちょっとペース落とさない?」
「至急って言われてんの」
「何だよ相棒、ちょっとおかしいんじゃないの。今日の相手ってどんな奴よ」
「知らないわ」
「知らないって、そんな……」
「アンタには関係ないでしょ。戦うのはどうせ私なんだから」
ルナとの会話をバッサリと切り捨てて目的地へ急ぐ。
天井が削り取られたビルの並ぶ廃墟の一画。コンクリートが長い時間をかけて風化した砂が、ブーツにこびり付いていく。
たどり着くと、サイファーともう一人女性が立っていた。
黒いレザージャケット、黒い軍用ブーツ、黒いライダースーツ、どう見てもノワールである。
慎重はルージュより一回り高く、前髪を真ん中で分けていた。目つきが悪く、女性のヤンキーとでも言えそうな外見だった。
「ルージュ、来たか。こっちはトルエノだ」
新たなノワールを紹介される。トルエノはルージュを見もしなかった。
「任務って?」
「先日、ある任務に参加していたノワールが二人殺された」
その言葉だけで危険度が如何に高い任務なのかを感じさせられる。
二人チームで、片方すら逃げることもできなかったということだ。
「当初、組織の情報では、相手は《アーク》からの斥候だと思われていた」
「斥候って何を調べに来てたんだ?」
何も知らないだろうトルエノが事情を尋ねてくる。
サイファーは顎である人物を指した。
「そこにいるルナだ。彼女は元々、アーク側の重要な鍵だった。それを我々が奪ったわけだが――」
「取り返しに動いたってわけ」
「早い話がそう言うことだ」
当然の話である。だからルージュが護衛に付いているのだ。
「それを片付けるためにノワール二人を派遣した。正直、それで充分だと考えていた。だが敵のレベルがこちらの予想を遙かに越える者だった」
その結果がノワールを二人失ったことである。
「そもそもあれは斥候ではなかっただろう。それほどのビッグネームだ。確実にルナを回収しに来ている」
「誰なの?」
「《黒鋼ノ磨羯》カプリコルヌ、アークの幹部でありウィリアム=レストン率いる《六魔将》の者だ。知っていると思うがレッドリストにも載っている最悪の軍団の一体でもある」
レッドリスト、組織の作成したカタストルの中でも特に危険な個体を記載した目録である。
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