第26話 バオム教⑭

「ふう」


 ルナも痙攣するルージュを見て、一息付いていた。

 さらにルナは顔を近づけてきて、ルージュの口から溢れた唾液を愛玩動物のように舐め取る。


「はあ、はあ……」


 ルージュも快楽の波が一段落を終えて、落ち着く。腕をオデコに当て、ぼんやりと天井を見る。


「ねえ」

 ルージュはそう切り出した。


「何?」

 ルナがそう返してきた。


「エレナは、子供を愛してはいなかったわよね」

「…………」

「そうでしょ?」

「相棒……」


 ルナの顔から笑みが失せる。


 少し考えるように頭を掻いた後、身につけていた黄色い下着を脱ぎだした。ブラジャーを外して、パンツも下ろす。それをその辺に投げた。


「ふぇっ!?」


 ルナの行動に、ルージュは奇声を上げてしまう。

 見ればルナの陰部からも糸の引いた愛液が垂れ流されていた。彼女はそれを指で掬って、味を確かめていた。


「どうだろうな……」


 全裸になったルナはルージュの横に寝ころんでくる。


「ねえ、あっち向いてよ」

「まあ、いいけど」


 ルージュが窓の方に体を向けた。


 ルナが背中から抱きついてくる。ルナの温もりが直に感じられた。

 汗ばんだ肌と肌が触れ合う。

 ルナの柔らかい胸が押し当てられた。


「私はあの親子と短い時間だったけど、一緒に過ごした」

 ルナは言葉を紡ぐ。


「その時のエレナの瞳は間違いなくエリーを愛していたと思う。これは本当だし、エリーも愛を感じていたからこその行動だったんじゃないかな」

「でも最後は……」

「そうだったな」


 エレナの最後に吐き出した感情は恨みに満ちていた。世界と運命と自分の子に。


「それも含めてエレナの心だったんじゃないかな」

「それって?」

「愛しているか、憎んでいるか。そんな二択で決められるほど人間の心は簡単じゃないんだよ。自分の子供を愛している気持ちもあれば、憎んでしまう気持ちもあった。どっちも本物さ」


 愛と憎しみ、相反する感情ですら共存する。複雑に入り組んだのが人間の心だとルナは言う。


 ――家族を愛する心と憎む心。


 ルージュにもそれは心当たりがあった。


 ――私の心にも、エレナのような感情が……。


 叫びたい衝動、全てをぶちまけたとしてルージュには何があるのだろうか。


 エレナとエリー、その存在がルージュの心を揺さぶってくる。


「あーいぼう」

 ルナが耳元で囁いてくる。


「ひゃっ!」

 そして後ろからルージュの胸に手が伸びてきていた。それが胸の突起物を摘む。


 火照りきった気持ちがまた浮上してくる。

 またもう一つのルナの手が、ルージュの下半身の陰部を探り当ててきた。

 くちゅくちゅと蜜壷の愛液が混ぜられる。


「あぅ♡」


 これではまた始まってしまう。


「もういい、もうイったじゃない」

「いやいや、あんまり気が紛れてなかったみたいだし。もうちょっと頑張らないとなって」


 ルナがそう言ってルージュの足と自分の足を重ねる。

 汗でじっとりした体と体が密着する。

 それがルージュの感度を劇的に上げた。


 ――さっきイったばかりなのに。


 乳首をコリコリと摘まれ、引っ張られる。

 今度は乱暴だった。


 ――気持ちいいよぉ。

 切ない気持ちで、ルージュは思った。


 新たなエクスタシーの予感に、ルージュは体を身悶えさせる。


「いい……」

 一度外れた理性のタガは緩みっぱなしだった。


「相棒、実は……私も」

 ルナが愛撫をしつつ、その性器をルージュに擦り当てていた。


「ああ、あぁ……」

 ルージュの陰部をまさぐる動作が激しくなる。


 ぐちゅぐちゅと、愛液の音は先程とは比べものにならないほど凄くなっていた。

 乳房を乳首ごと引っ張られつつの愛撫は、もうルージュを快楽に陥れていた。

 もうすっかりできあがっていた体は、絶頂の構えができていた。


「相棒、イく?」

「……もうダメ」


 宣言してしまったが最後、ルージュは頂点に達する。


「あぁ!」

「ん!」


 ビクビクと震える。その中でもルナの指の動きは止まることを知らなかった。

 絶頂の快楽を受け止めたくて、声も体も活動を続けた。


 愛液が飛び出る。乳首もイジられる。

 頭が感電したような刺激を得る。


「あん……ん……」

 完全に果てて、ようやくルナの指も収まった。


 ルージュがルナの方を向くと、彼女もまた眼がトロンとしていた。


「よかった?」

 エヘヘと、ルナはいつもの無邪気な笑顔で聞いてくる。


 それを見て、ルージュも調子を取り戻した。


「まあ……よかったわよ」

「じゃあまた今度それ着てよ。私も同じの着るから」

「……考えといてあげる」


 身に纏うセクシーランジェリーを眺めて、ルージュはそう言うのだった。


            *


「最悪の展開だな」


 それと同じ夜、サイファーは二つの死体を前に嘆いていた。

 黒いレザージャケットにライダースーツ。両方、黒尽くめの少女である。ほぼ原型を留めず、肉の塊しか残っていない。

 死骸特有の悪臭が鼻を刺激する。


 ――奴らの動きがここまで早いとは……。


 サイファーは偽物の空を見上げるのだった。

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