第14話 バオム教②

 廃工都市の北の道をルージュとルナが歩く。

 廃墟が並び、道路にヒビの入った荒廃した風景が続いた。

 人気が失せていく。機密の情報を交換するには最も適した場所である。


「なあ相棒、バオム教って何だ?」

「コンピューターを信仰する、豚のクソを煮込んだカレーみたいな新興宗教よ」


 ルージュはイライラと悪態をつく。

 なぜなら彼女の最も嫌いな団体だからである。


「神樹戦争って言葉は知ってるでしょ?」

「それだけなら。内容はよく知らないけど」

「その神樹っていうのはユグドラシルのことを示すの」

「ユグドラシル?」

「ユグドラシルって言うのはかつて人類を支えていた有機コンピューターの名称ね。巨大な樹の形をした生きるコンピューターってところかしら」

「人類を支えるって、具体的には?」

「その内容は詳しくは知らないわ。あんまり記録が残ってないのよ。ただコンピューターがその時代、人類のあらゆる分野で補助をしていたって聞いてる」


 あの時代の詳細なデータは三度の核戦争と神樹戦争で大部分が失われていた。

 ただその中でもユグドラシルに関する運用データは異様なまでに残っていなかった。


「ユグドラシルは政治的意志決定や街の経済計画、個人の仕事や生活のサポートを全般的に行っていたらしいわ。その時代の人間はそのおかげで今より遙かに発展してのよ。ただしその反面、強く依存もしていたようだけどね」


 ふわっとした、何となくの情報しか未だにわかっていない。


「じゃあ神樹戦争ってどうして起こったんだ? ユグドラシルって人類のためのコンピューターなんだろ」

「理由は不明よ。記録に残っていることは第三次核戦争の最中、突如として世界中のユグドラシルが一斉に反乱行動を起こしたの。おかげで核戦争自体は強制的に幕を引いたけど」


 それどころではなかったと言うのは、今の時代からでもわかる。

 特にノワールのルージュには痛いほどわかってしまうのだ。


「ユグドラシルの反乱は予想以上に人類に大きな打撃を与えたわ。さっきも言ったけど、その頃の人々はユグドラシルに依存していたからね。そしてそこから最後の大戦争が始まった」

「結果は?」

「大敗北。完膚なきまでに叩きのめされたわ。だから人類はこうしてドーム都市って檻に閉じこめられているのよ」


 ルージュは空を見上げる。星と月が街を照らす為だけに輝いていた。

 だが空は全て偽物。本物の太陽をドーム都市から拝むことは叶わない。

 見方を変えれば大きい監獄に収容されたとも言える。

 何の罪か、天の罰か。


「意外だな。核兵器使えるってのなら勝てそうなもんだが。そもそも今より技術はかなり上だったんだよな」

「まずその大量破壊兵器の制御プログラムを最初に奪われてんのよ。兵器の運用も機械の補助が必要で、それはユグドラシルが管理運営してたらしいわ」


 残っている記録によればそもそもユグドラシルの最初の反乱は兵器のコントロールを乗っ取ることだった。


「それで人類側は銃器を用いた白兵戦しか初期は行えなかった。後期になって強力な兵器も生み出して対抗しようとしたけど無駄だった」


 強力な兵器、それすら効かない存在。

 それが今になっても繋がってくる。


「問題はここからよ。ユグドラシルの使った兵器はね、シード」

「それってまさか」

「世界を統べたユグドラシル、それが使った最強の兵器、それこそがカタストルなのよ」

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