第11話 ゴミの町⑦
「組織はノワールになる資質のある年端も行かない女の子を訓練生として集めるの」
「ノワールって女しかいないの?」
「そうよ。男だとノワールに適する年齢の時、ちょうど成長期で身長や体重が安定しないのが問題らしいわ」
男女の成長には年齢差がある。幼いころは女子の方が体格的に優れているが、第二次成長期を過ぎれば一気に追い抜かれる。
つまり成長の早さだけを見れば女子の方が体の完成は早い。
男性の場合、ノワールに適する年齢の時に身長や体重が伸びきっていないことが多々ある。それがどうもノワール化の際に悪影響を及ぼすのだそうだ。
それが原因だと教えられている。
正直ルージュも今にして思えば疑問の残る説明ではあった。別に女子とて十四か十五で完璧に体が出来上がるわけではない。
思春期の頃の女性が成人女性になったとき、整形抜きで、顔や体つきが全く違うなんてよくあることだ。
だが専門家でもないのでルージュには真実はどのみちわからない。何より興味もなかった。
「この時代、女の子を集めることはハッキリ言って簡単だわ。身寄りのない子供なんてどこの都市でも溢れているし、大金をちらつかせれば喜んで自分の子供を売ろうとする親ばかりだもの。逆に組織の提案に断固拒否する方が珍しいくらい」
「相棒も?」
「私は……」
ルージュは少し言葉が詰まる。
「まあ、似たようなものよ」
「そっか」
ルナは何かを察したのかそれ以上の追求はしてこなかった。
実際に嘘ではない。
大して変わらなかった。
「それで四十人くらいが集められるの。それで一つの集団ってところね。そこから七年か八年くらい、ノワールになって戦う為の訓練と思想教育がなされるわ」
「キツそうだな」
「いや意外かもしれないけど、訓練自体はそんなに辛くないのよ。どうせノワールになれば身体能力運動神経は勝手に超人的になるし、やっぱり小さい子供じゃできることは限界があるわ。教官も優しい人ばっかりで脱落する子も出ないし」
一般人からノワールを見ると、スパルタ的だと思われ勝ちだが、そんなことは全くない。しっかりと運動が苦手な訓練生でも無理なくこなせるプログラムになっていた。
最終的には軍隊並みの訓練にはなるが、それでも長い年月をかけて無理なく段階を踏んでいるので脱落する者はいなかった。
脱落する人間がいないのは訓練が手順を踏んでいること以外にも理由がある。
「それで四十人での共同生活。その中でチームに別れたりするけど。穏やかなものよ。皆で頑張って、休みの日はお小遣い貰って街で遊んだり。たまに喧嘩をしたりするけど、すぐに仲直りするし」
優しい世界だった。
地獄のドーム都市を生きてきた少女達にはここが天国かと思えるほどだ。
「思い返せば組織が、訓練生達がギスギスしないようにいろいろと気を使ってくれていたのよね。お遊戯会とかキャンプや旅行にもよく行ったものよ。皆、本当に仲良しだった。全員が親友って言えるくらいに」
「聞いていると楽しそうだな」
「楽しかったわ。ほとんどの子にとって、人生で一番幸福な時期じゃないかしらって言うくらい」
ルージュの顔に笑みが浮かぶ。しかし皮肉の籠もった笑みであった。
「そして長い訓練時代が終わり卒業生となり、いよいよノワールになる日が来るの」
そのための訓練生なのだから当然である。
「心臓にシードを融合させる手術、それが成功すればノワールになれる。それでその手術の際、邪魔だから必要のない毛は脱毛するの」
「それでパイパンな訳ね」
「……そうね。あと足とか脇とか、顔の必要最低限なパーツ以外は全部脱毛。それにプラスして長い訓練を終えた卒業生の女の子達にはご褒美があるの。それが通称『死に化粧』」
ようやく話が最初に繋がっていく。
「ノワールになれば外見は完全に固定。髪は伸びないし、切ってもすぐに再生するから短くもできない。肋骨を抜いて細く見せようにも、抜いたら瞬時に再生する」
増えもせず、減りもしない。
変わらない、いや変われないのだ。
「卒業生ってのは外見を変えられる最後のチャンスになる。だから組織が最後に女の子達に希望の美容処置を施すの」
希望は個人個人で様々だったろう。
「髪型を変える者、歯並びを治す者、整形を希望する者、ニキビやホクロを除去する者。その全てを組織は喜んで引き受けたわ。そして皆は自分の思い描いた最高に美しい理想の姿になる」
「相棒は何したの?」
「あんまりそう言うの興味なかったし、髪を整えた程度かしら」
ルージュには目的があった。明確にノワールになって成し遂げるべきことが見えていた。だから周りとは少し毛色が違っていた気がする。
「そしてそれらが完了すると、全員で一緒にノワールの手術が始まる」
「一緒にやるんだ」
「そうよ、手術台は横並び。全身麻酔をかけられ、胸を切り心臓にシードを埋め込む。そしてうまく成功できたらノワールとして生まれ変われるの」
「ただしノワールになれる確率は限りなく低いわ」
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