第10話 ゴミの町⑥

 ルージュはシャワー室から上がり、髪をドライヤーで乾かす。そして洗浄機からいつものライダースーツを取りだし、それに着替えてリビングも戻った。

 ベランダの窓ガラスを眺めながらベッドに座った。


「全くサイファーの奴……」


 変なことを吹き込んでくれたものだ。


 ――でも二人ってのも……悪いことばかりでもないか……いや駄目だろこんな考え。


 ルージュはぶんぶんと首を横に振る。

 常に死と隣り合わせの身分としてはあまりにも弛んでいる。


 しかしこういった楽しみしかないのは事実だ。


 後はせいぜい映画を見るか、本を読むしか趣味はない。しかも映画に関してルージュははドンパチ映画しか基本的に楽しめないのだ。

 純粋なコメディなど観ていると頭が痛くなる。

 ホームドラマなどを鑑賞しようものなら反吐が出てくる始末だ。


「いやー、さっぱりした」


 ルナもピンクのパジャマに着替えて歩いてくる。自然にルージュに隣に座ってきた。


「しかし相棒、前から思っていたんだけどその格好って寝にくくないの?」

「別に。慣れればどうってことないわ」

「じゃあ今度お前さんに似合うパジャマ買ってきてやるよ」

「いらないわよ、荷物が多くなるだけだわ。ただでさえこれから移動が続くのよ」

「大丈夫だって、それなら私が持つし」

「……勝手にすれば。邪魔なら捨てるからね」


 ノワールは定期的に都市間の移動があるので、荷物となるものは売り払うか捨てるか、どちらかが多い。お金に余裕があるのと荷物を嫌う性質のせいだろう。


 ルージュは少し味が欲しいと思い立ち上がる。


「ルナ、何か飲む? 選択肢はオレンジジュースか水しかないけど」

「ジュースちょうだい」


 コップに二杯分のオレンジジュースを入れて、ベッドに戻る。

「はい」とその一つをルナに手渡すと「あんがと」と受け取ってくれた。

 ルージュはコップの飲料をゴクゴクと飲み始める。


「ところで相棒ってさパイパンなんだな」

「ぶほぉっ!」


 ルージュは口に含んだものを盛大に吹いてしまった。


「な、何よいきなり! びっくりするじゃない。それはアンタもでしょ!?」

「私は人造人間みたいなもんだし、いらないものは省いたんじゃない。でもお前さんは元は普通の人間だったんだろ?」

「元はね。でも体がこれ以上、変化することはないわ。私は一生、十五歳の体のままよ」


 それはもうずっと前からのことだった。今更他人に話すことになるとは思わなかった。


「どうして成長しないの?」

「それは心臓と融合したシードが、ノワールになった時点での身体を基準に再生能力を発揮するせい。だから外見はその時点で固定化されるのよ」


 ルージュはオレンジジュースを改めて一口飲む。


「だからね、ノワールは手術前の訓練生時代に《死に化粧》をするの」

「それって死体のお色直しの意味だったよな」

「そうね、けどここでは少し違うの。この意味を話すのは少し長くなるのだけれど、ちょうどいいわ。教えて上げる」


 ある意味でいい機会だった。


「そうすれば貴方が向かっている組織がどんなものか、少しはわかるわ」


 黒い太陽――どうせ何かしらの形で知ることになるのだ。早くとも問題はないだろう。


 ルージュはそう思って口を開く。

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