第9話 ゴミの町⑤
一仕事を終えてたルージュは自宅のアパートにルナといっしょに帰ってくる。
ドアを開けて質素な我が家に入って行った。
「たっだいまー」
ルナが部屋のベッドにダイビングする。
ルージュはキッチンの棚に鉄道のチケットを置いておく。そして銃の入ったホルスターごと体から外してベッドに放り投げた。
そして浴室へ向かう。
――大したことしてないのに、妙に濃い一日に感じたわね。
思えば他人と過ごすのは久しぶりだった。
たぶんそれが大きかったのだろう。
ノワールでは新人の頃に上位のノワールとチームを組まされる。それが後の師匠になったりするのだ。
また駆け出しの時には、同じ位のキャリアの者とチームを組まされ、しばらく一緒に暮らすことになっていた。
ルージュはそれらの期間をすでに終えていたので、長い間一人で行動していたことになる。
任務の内容によっては他のノワールとペアを作ることはもちろんある。しかしその場限りで解散するので根本的に別物だ。
他人と過ごしどっと疲れてしまうのは問題かもしれない。元々ノワールになった時から人嫌いになりつつはあったのだ。
それもきっと慣れるだろう。慣れたときにはおさらばかもしれないが。
ルージュはジャケットを脱ぎ、洗浄機の中に突っ込む。ライダースーツのチャックを下ろし、パサリとそれも脱いで洗浄機に入れる。
最後に髪を纏めていたゴムを取って洗浄機の上に軽く投げた。
バスルームの扉を開けて中に入る。
シャワーのお湯を出して、全身で浴びた。これだけで疲れが抜けていくようだった。
浴室のバスチェアに座り、髪を洗う。シャンプーとリンスの匂いが充満していた。
「?」
ふと隣からガサゴソと物音が聞こえてくる。
何だ、と思いルージュは首を傾げた。
その時だった。
ガラーっと浴室の扉が開けられる。
「おいーっす。お背中流しに来たよ」
全裸のルナがそこにはいた。形の整った乳房と括れた腰、それにすらりとした足が目に入る。
「はぁ!?」
完全に不意打ちだった。
ルージュは両手で自分の目を覆うポーズをする。ポーズだけで実際には指の隙間からルナを見ていた。
ルナの体はやはり美しかった。ルージュはついそれに視線が吸い寄せられてしまうのだ。
「ちょ、ちょ、ちょっと何よアンタ!」
「いやいやいいじゃないの」
ルナは扉を閉めてドカドカと入ってくる。
そして背中からルージュにくっついてきた。肌と肌が触れ合う。
「サイファーさんに言われたんだよ。こういうお世話もしてあげてくれって」
「あんのハゲ……」
あの時の会話はそう言うことだったのか。しっかり聞いておけばよかった。
「これがノワールの超力を回復させられるみたいだな。こっちも頼りっぱなしってのは嫌でよ」
「む、無理しなくていいのよ」
少し声が上擦ってしまう。異様に緊張してしまっていた。
ルナが体を預けてくる。その大きすぎず小さすぎない胸がルージュの背中に押し当たる。
そして耳元でルナが囁く。
「相棒の力になりたいんだよ。私なりに精一杯頑張るからさ、いいでしょ?」
「まあ、そう言うことなら……」
ルージュは囁かれてドキッとしてそんなことを口走ってしまう。
ルナは手を伸ばしてボディソープに手を伸ばす。
「今日は初日だし、取り敢えず軽く相棒の体を洗うよ」
ルナの掌に白濁色の液体が注がれる。彼女はそれを両手に広げた。
ルージュの体に、ルナの手が載ってくる。
脇腹から上に丁寧にボディソープが塗られていく。ルナの柔らかい手の感触が、気分を高揚させてくる。
「ん……」
「嫌?」
「……嫌じゃないけど」
ルージュの脇から背中にかけて、ルナの手が優しく押されてくる。そして左の脇から肩、そして腕にボディソープが塗られる。
ルージュとルナの手が絡む。何となくルージュがそれを軽く握ると、ルナも嬉しそうにそれに反応してくれた。
鎖骨と首を渡って、次は右の腕に移行する。脇から丁寧に泡が立ってくる。
丁寧なのはいいのだが、何だかじらされている感じになってしまう。すでにルージュの下半身は熱く刺激を求めている。
上半身はほとんどが洗い終わっている。
ルージュの乳房がルナの洗浄を待った。
だが次にルナの手が伸びたのは太股だった。ルージュは期待が外れて、肩を落とす。
――うう、何を私は……。
期待自体がはしたないことだった。それを思い、ルージュは両腕をお腹の前で組む。
欲しい場所の近くにルナの指の感触がする。
「んん……」
疑似的に敏感なところに触れられている気持ちになってしまう。届きそうで届かない。
体が疼く。
本当に欲しいところはわかっている。それでもルージュはプライドが邪魔して自分からは何もいわなかった。
あくまでこれは超力を回復する行為。それ以上でもそれ以下でもない。だから変な反応はしない。クールに、事務的に終わらせる。そう自分に言い聞かせる。
「どうしたの相棒、恐い顔して?」
「……何でもないわ」
ルージュは顔を赤らめて、横を向く。
気が付けば顔に意味もなく力が入っていた。たぶんそのせいだろう。足の部分がとうとう終わる。
ルナが新たにボディソープを掌に乗せていた。
そしてルージュの背中に回り込んでくる。ルージュは唾を飲み込んだ。
「じゃあいいかな?」
「さ、さっさとしなさいよ」
「はいよ」
ルナの手が胸に触れる。それがじっくりと円を描くように動いていく。
「んぁ……」
性感帯を刺激されて一気に恍惚感がいきり立つ。声が出そうになるのを、唇を噛みしめて我慢する。
胸の突起物にルナの指が触れる度に体が過敏に反応してしまう。腰が快感を貪ろうと自然に動いてしまう。
さらにルナの左手が下腹部へと移動する。
ルージュがすがるようにルナの右手を軽く握る。
そして下半身の性感帯に肌が触れ合う。
散々じらされたせいで、もう快楽の栓がゆるゆるだった。そこへ急な攻めがやってくるのだ。
もう我慢できるわけがなかった。
「はぁはぁ――」
性器にある赤い肉芽をルナが優しく擦る。最初はスローでねっとりと。
それでもルージュには充分過ぎた。
肉芽を擦られて、快楽の渦に飲み込まれる。
もっともっとと脳が欲する。
だがそんな崩壊する自分が恥ずかしかった。
「ルナ、ルナ、もういいから」
「本当に?」
「本当にもういいの――あぁ!」
ルージュの懇願とは逆に、ルナの左手は挑発的にだんだん激しくなっていく。
下腹部から熱い何かがせり上がってくる。
絶頂の予感に震えた。
「んぅ!」
弾けるように背骨を一気に反らせる。
足をヒクヒクと痙攣させながら股を切なげに閉じた。
ルージュは肩で呼吸をする。
ぐったりと体から力が抜けていく。
ルナはすでに手を離しており、ルージュの肩に置く。
「初めてだったけど、良かった?」
「ま、まあまあね。及第点ってとこかしら」
あれだけの攻勢を受けても、ルージュは意地を通した。
「ありがと、相棒」
それでもルナはそう言って、クシャっと顔いっぱいに微笑むのだった。
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