第8話 ゴミの町④

 ルナを残してルージュは迷路を進んでいく。

 周囲を光沢を失った鉄屑が隆起していた。

 

 時折空から鉄パイプのような破片が落ちてくる。ルージュは意味もなくそれを蹴り飛ばした。


 やがて開けた空間に出る。

 広場のような場所である。ここを一つの拠点に回収作業をしているのだろう。

 他の場所へ繋がる入口が無数にあった。ここは回収拠点であり、ゴミ山の中継拠点の役割も果たしているのだろう。


 そこには一人のバンダナを頭に巻いた青年が回収したゴミを袋にせっせと積めていた。

 青年はルージュに気付いて柔らかい笑顔を浮かべ話しかけてくる。


「貴方もゴミを回収に来たんですか?」

「そんなところよ」

「そりゃ運がいい。今日は人が少ないから仕事も捗りますよ」

「確かに都合がいいわね」


 ルージュはそう言ってレザージャケットの内側に右手を入れる。


「早速ゴミは処分させて貰うわ」


 銃鞘から素早く呪印銃を抜く。

 そしてためらいなく青年に撃ちかました。

 紫の閃光が宙を滑る。


 青年は驚異的な身体能力でジャンプしてそれを避けた。

 そのまま青年はゴミの壁の上に降り立つ。


「気付いていたか、ノワールのガキが」


 黒い影が青年の内側から噴出され、外側から覆っていった。

 邪気を伴った闇が肥大化していく。


 それは大きく黒い飛蝗バッタのカタストルへ変貌した。

 カタストルの足が膨張する。


 ――マズい。


 ルージュは向かって左に足を踏み込ませる。


 カタストルが跳んだ。


 丸い真空の輪が広がる。

 空気の壁が破られる瞬間を垣間見た。

 音速を超えるスピード。眼にも見えない疾さ。


 回避行動が早かったおかげで、ルージュの横をそれは抜けて行った。


 音と風圧が遅れてやってくる。

 カタストルの通った痕には砂塵を巻き起こすような風圧が唸った。

 風圧でルージュの髪が乱れる。


 それだけで瓦礫の山の一角が崩れた。


 それも気にせずルージュは振り返って即座にカウンター。風圧で眼の水分すら奪われる中、カタストルの着地した地点に撃ち込んだ。

 それはカタストルの前足と触覚に抉り込む。


「クソッ!」


 傷付いた箇所はすぐに再生を始めるが、ルージュがそれを待つわけがなかった。


 カタストルはそれに気付いて、負傷したままで再び跳躍の構えを取った。

 あのジャンプ力でどこかに逃げるつもりなのだ。


 あの速さ、力。例え片足なくとも飛距離は十分だろう。

 それをされると、ルージュでは追跡は不可能。しかし逃がすわけには行かなかった。

 カタストルが用意の構えで足を膨張させ、跳びだそうとする。


「魔眼解放――」


 ルージュの左目が疼く。


「超感覚」


 世界が遅延する。


 スローモーションの世界の中で、ルージュの感覚は研ぎ澄まされていた。

 カタストルがゆっくりと動いている。

 その動きを、軌道をルージュは丁寧に読みとった。


 そして時が正常に戻る。


 ルージュは間髪入れずに腕を右に振り上げる。

 そして振り上げつつ呪印銃を二発放った。


 一発目の紫色の光線は跳躍するカタストルの頭に当てる。そして二発目は、胴体の中心を撃ち抜いた。

 黒い種子が割れて、破片が地に落ちる。


「あぁぁぁぁぁ!」


 カタストルの断末魔が鉄屑の山に木霊した。

 打ち落とされたそれは、体が黒い霧のような物体と共に消失していく。

 闇が打ち消され、しかし薄汚れた鈍色の屑だけが残る。


 それを見物しながら、ルージュは銃をホルスターに納める。

 鉄屑の壁がいくつか崩れていった。

 ルージュはそれが終わるまでを眺め、辺りに何もないことを目視で確認すると、その場を去るのだった。

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