第7話 ゴミの町③

 ルージュが駅の壁に背を預け、腕を組んでいるとルナが出口からやってくる。


「サイファーの話って何だったの?」

「あー……それはだな」


 ルナは何故か顔を赤らめて、頬をポリポリと掻く。


「あんまり大した話じゃなかったよ。たぶん直にわかる」

「ふぅん。別に何でもいいけどね」


 少し気になりはしたが、本当に重要なことであればサイファーが言わないわけがない。そうであれば知らなくてもいいことなのだろう。

 どうせ大方「ルージュは性格がガキだから気をつけろ」とか言ったのだろう。


 ――あのハゲ、今度会ったら嫌がらせにカツラでもプレゼントしてあげようかしら。


 ルージュはその時のサイファーの心中を想像して黒い笑みを浮かべる。さぞ痛快だろう。


「さあ行くわよ」

「オッケー!」


 ルージュが歩き出すと横にルナも付いてくる。


 駅から北のゴミ山は近かった。東の方だったらゲンナリしていたところだが、サイファーもその辺は踏まえていてくれた。


 少し歩くと廃墟が目立つようになっていく。押せば崩れるような雰囲気の建物ばかりだった。歩道はそれにつれ瓦礫の石がじゃりじゃりと歩くたびに音を鳴らす。コンクリートの道路は、しかし逆に綺麗になっていった。


「なあゴミ山って、どんなとこ? ゴミが捨ててあるだけ?」

「そうよゴミが山のように積まれているだけ。だけどこの街の住人にとってそれはただのゴミじゃないわ。前時代の遺物や良質な鉄屑が取れる宝の山よ」


 だから別名、鉄屑の街とも呼ばれている。


「元々ここは軍事工場の街と、それを廃棄するための巨大なゴミ処理場があったらしいわ。街の方は神樹戦争の時派手にやられてしまったけど、ゴミ処理場の方はノーダメージだったわけ。それで巨大なゴミ処理場をベースに、回収拡張してドーム都市が生まれたの」


 攻撃された時期が早かったのが幸いしたようで、当時はこの周辺の汚染濃度は低かったらしい。

 そこで街をも飲み込んだドーム都市建設計画ができたのだそうだ。


 ルージュ達の横をトラックが過ぎていく。貨物にはこぼれそうなほどの鉄屑が積まれていた。


「でもそんなのいつか尽きるんじゃないの?」

「そうね。でもそうなってもこの都市で生み出されたリサイクル技術は他の追随を許さないほどだし、最近ではそれで利益を得ているわ」


 副次的な産物ではあるが、それでもないよりはいいだろう。


「それに資源を掘り尽くしたら、なんて心配は他のドーム都市でも同じよ。鉄鉱石だって石油だって掘り尽くせば終わりなんだから」

「それもそうだな」

「何よりあのゴミの山が掘り尽くされるなんて、私には想像も付かないわ」

「……確かに」


 遙か向こうに聳え立つ山を眺めてルナも納得するのだった。


            *


 ゴミの山。


 文字通りの山だ。入り口はゴミが回収されたことで生まれた獣道があった。

 過去から掘り進められて生まれたそれが、まるでアトラクションの迷路のようになっているのだから奇妙である。


 その奥にずっと進むと本山に辿り着くことができるらしい。

 そこまで進んだことは今のところなかった。


 ルージュは迷路の入り口で彼方にある本山を見上げる。

 ルナは実物を間近で見て、驚いていた。当然の反応だろう。

 ルージュも初めて見た時は呆然としたものだ。


「標高150メートルはあるらしいけど、登山でも楽しむ?」

「いや間違いなく遭難しそうだ」

「賢明な判断ね。実際奥まで探検しに行って生還できた人間はゼロよ」


 地元の人間ですらそうなのだから余所者など、もっての他だろう。

 百年単位で無作為に掘り進められ、生まれた道は今では全容を誰も把握できてない。仮に無理やり奥まで進めても帰り道がわからなくなるそうだ。


「ちなみにこれが残り南に一つ、西と東に二つずつあるわ」

「そりゃ掘り尽くす未来が見えないわけだ」

「そう言うこと。じゃあ行くわよ」


 ルージュは迷路の中に入っていく。鉄屑の壁を伝って進んでいった。


「ん……」


 途中で赤い肉塊が視界に入る。死体だ。

 脳と心臓だけが綺麗に食べられていた。間違いなくカタストルの仕業である。


「近いわね」


 強い超力を感じる。ルージュは右手でホルスターに収まっている呪印銃の存在を確認した。


「ルナ、ここで待っていなさい」

「わかった」

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