第4話 初、生顔合わせ(3)

 それから、1ヶ月後のこと……である。


 《ヴィイーン! ヴィイーン!》


「はいっ! 『F-IS課』!!」

『こちらは、フロントの7番ですが。HOPゲートの1番基にて、只今エラーが発生しました。至急、確認の方をよろしくお願いします』


「……」

 フロントの7番っていうと、《【HOP】チャリアビティーポリス》……つまりは、の施設群内にあるHOPゲート1番基のことを意味する。

 その報告を受け、わたしと神垣先輩はほぼ同時に頭を抱え、「またか……」「またかよ」と頭を抱えため息をついた。


「わかりました。状況報告の方をお願いします」

『はい! えーっと、HOPゲート使用前後で、エラーが多数発生、という状況です』


「…………」

 その報告内容に、再び頭を抱え直す。

「取り合えず、の様に、エラー画面の転送をお願いできますか?」

『了解しました!』

 間もなく転送されて来た画面には、おびただしい数のエラーコードがズラリと並んでいた。

 しかも、スクロールして確認するのも億劫に思えるほどの量だ。


「…………」

 わたしと神垣先輩はそこで一度顔を見合わせた後、ほぼ同時に深いため息をつき。猛烈な呆れ顔を、そのVR画面に表示されている中身に対し向けた。


 あれから製造元メーカー対応がされ、故障部品の交換や調整が各所で行われはした。それから試験運転を数百回行った結果、《問題なし》という判定結果となり。先週から正式にリリースされたんだけど……。

 メーカー対応中は発生していなかったエラーが、今頃になって『まさかッ!!?』と思われるほど頻繁に発生するようになっていたのである。



「ですからぁ~……すみませんがぁ、確認の方をお願いしますよぉ~……」

 わたしは規則ルールに従い、仕方なくフェミクさんへ通信インカムを使ってトラブル対応依頼を行っていたのだ。が、



『はぁあッ?! 確認ったって、どこをどう調べたって故障箇所が毎回見つかんねぇーんだから、やるだけムダだって! 

こっちだって、やるコトが他にも沢山あるんだよッ!! 

記憶力だけはバカみたいにズバ抜けているクセして、頭悪いな~IR娘っ!』


 ──あ…IR娘て……な、なによ!? それぇー…。



「ハン! これだからド素人は困るんだ。所詮『世の中は、経験値が何よりもモノをいう』ってこったな!

レベルが違い過ぎて、鼻血も出ねぇーや。

やるだけムダなことをやるほど。世の中、これ以上のムダなことは無いんだぜっ!」


 そ…そこまで言いますか……っ!?


「でも、規則ルールですし……」

『ハン! そんなムダなルールなんて、このオレからすりゃ、クソ喰らえだぜ!』


 く、クソ喰らえて……。


「そこをなんとか、お願いしますよぉ~……」

『や・だ・ね! 大体ハルカちゃん、あれからオレと一度もデートしてくれてないじゃないかぁー! 

──うそつきっ!!

規則ルールという前に、こっちの約束ルールもちゃんと守ってくれよっ、な!』


 ど、どんなルールなんですか、それは……?


「はぁ……わかりましたよ。今度ちゃんと、一度くらいならデートしますから、とにかく今は、お願いしますよぉ~」

『よっしゃあああーー!!! 急にやる気が出てきたぜぇーー!!!

オレに全部、任せとけぇえーいッ!! 完璧に、直したるわぁああ~い!♪』


「…………」

 なんて調子の良い人なんだろう……と、わたしは呆れ顔に思い、頭をそこで三度目抱えた。

 そんなわたしの隣で、神垣先輩は呆れ顔を見せ、その様子に苦笑している。

「ハハ。まぁアイツも、悪い奴じゃあ~ないんだがなぁ~」と。



 ――しかし、その翌日も……!?


 《ヴィイーン! ヴィイーン!》


「はいっ! 『F-IS課』!!」

『あのぅ~……フロントの7番ですがぁ~』


「…………」

『えーっと、取り合えず…いつもの様に、エラー画面を送った方がいいですよねぇ?』

「はぁ……はぃ…それは御親切に、どうも」


 わたしは苦笑気味にも、相手に笑顔を向ける。

 そして、そこには相変わらずおびただしい数のエラーコードが並んでいた。

 わたしは、そこでこう思った。


 ――というか……『!』直ってないし!!


 そろそろフロントの人たちからも、今では気を使われる始末で。F-ISの面々は暇もなく、エラーの対応に追われ。昼夜問わずというのもあり、わたしと神垣先輩は急遽2交代で昼と夜に別れて、対応するようになっていた。


 しかも、そんな訳で12時間超労働……し、しぬ…っ!


 今となっては、もう目の下にくまも出来ていて。デートだとかなんだとか、そんな気分にはとてもなれる心境じゃなかった。

 そんなわたしの気持ちなんてお構いなしに、フェミクさんからは度々、通信インカムへ連絡が賑やかに入って来る。このバイタリティーの高さには、思わず感心させられるくらいだ。

 わたしにも少し、分けて欲しいくらいだよぉ~っ。


『そぅかあー! そうだよなぁ~!! やっぱ、リラク施設が一番だよなぁあ~♪ 

じゃあ~今度一緒に、そこでデートしよう!!』

「はぃ……。を、ちゃんと直してくれたら……いつでも…いくらでも……もう、お好きなように」


『わははは! ぶわぁ~か。コイツはもぅ、~よ……』

「はぁ?」


『あ、いやっ! なんでもねぇーって!! 気にすんな! ワッハッハ♪』

「……じゃ、『用事無し』ってコトで。切りますね?」


『――あ、おいっ! ちょっと、待てッテ!!?』


 ──ブチン☆


 面倒だから切る。

 が、間もなく。再びインカムが鳴り。


『よっ♪ 元気かぁあ~?』

「…………」

 元気もなにも、ついさっきまで話していたばかりだし。

「そんな短時間で、人の体調なんて。そうそう変わりませんよぉー!

それじゃあ、用事無しということで、切りますね? あっでぃおぉ~す♪」

『――あ、おいっ、いや!? だから、待てッテ!!』


 ──ブチン☆


 こんな感じのやり取りが、ずぅーっと続いていた。

 もしかして、これも立派なストーカー行為じゃないの?? なんて風に、そう思えてならない今日この頃だよ。


 そして再び、通信が入る。


『あ、こちらですが……』

「──ああーー!! もぅーっ! いい加減にしてくださいよぉー!! こンの、バカあー!!」

 ブチン☆

「……あ、あれっ?? って……アレ?」



 ――ちょ、ちょっと待ッテ!? うそーーん!


 わたしが慌てて、管理室前の《フロント》側へ急ぎ目を向けると。多数のフロントの人たちが、驚いた表情をこちらへ向け見つめていたので参る……。

 中には、苦笑している管理者の人まで居た。


「も……もぅ、最悪だぁあ~~。ホントに泣きたいよぉ~~~……」


 わたしは思わずそう零し、深いため息を漏らす。

 そして間もなく、管理室内全員に向け《ジャンピング土下座》をして見せたのは……言うまでも無いっ!?



 ──ぐはっ! もう、泣けるっ!!




 『クレイドル』 ―時空ホップのハルカ―

  第四話、初、生顔合わせ -おわり-


 ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

 本作品に対する、感想評価などお待ちしております。今後の作品制作に生かしてゆきたいと思いますので。ご協力のほど、どうぞよろしくお願い致します。

 


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