第4話 初、生顔合わせ (2)
その後も、今日ばかりは流石に定時という訳にも行かず。4時間残業の21時を、いよいよ過ぎようとしていた。
下手をすると、このまま28時間耐久マラソンになりそうな雰囲気だ。寝てない時間だけで考えたら、もう既に43時間にもなる訳なんだけど……。
後ろに居る課長も、帰る気配がまるでないし……。いつも、定時になると速攻で帰る神垣先輩でさえも、この日ばかりは熱心に仕事をやって見せていた。
この要領の良さは、学ぶべきモノ、なのだろうか??
そうこう思い、わたしがため息をついて間もなく。管理室への入り口が開き、そこには背の高い人と背の低い人が立っていた。
……というか、よく見ると。背の高い人が、身長190センチ以上もある長身の大きな体躯の人で。もう一人は、身長170ちょっとあるか無いか?くらいの普通な体躯をしており。まぁ、それなりな感じの人だった。
決して、その人の背が極端に低い訳ではなく。隣の人が、単に大きいだけ。
年齢的に、二人共30歳前後、いや手前って感じかな?
髪は二人共短髪で、背の高い人は金髪でアメリカ系の人だと思う。
もう一人の背が普通な人の方は、黒髪に少し茶色が混ざった感じの毛質で、私と同じ東洋系っぽい?
もしかすると、わたしと同じ日系人なのかな??
それにしても、ここでは余り見慣れない人たちなのは確かだ。
でも、総務のヘイコックさんが簡単に、しかも和やかに中へ通していたので、ここの関係者であるのは間違いない。特に背の低い人とは、随分と親しいみたいだったし……。
それにしても、どこの部署の人だろう?
そう思い、横目でそれとなくその様子を伺っていると。何故か、こちらへ真っ直ぐに向かって歩いて来て。わたしの真後ろを通り過ぎ。そのまま、うちの課長に業務報告書らしきものを手渡していたから驚く!?
あれっ? ま、まさかとは思うけど……。
「課長! 任務の方は、なんとか無事に済ませて参りました!!」
この声は……間違いない。あのフェミクさんだ!?
「ああ、御苦労。それで、状況は?」
課長は渡された資料を1ページずつめくり確認しながら、実に落ち着いた様子でそう訊ねていた。
「【
ただ……」
「ただ、なんだね?」
「HOPゲートの担当保全部から、保険的に念のため『実測したい!』との申し出がありましたので。この件は一度、課長へ連絡確認致しました通り。現在のところ、『保留』という形になっております!」
「ああ、例の件か……わかった。他には?」
「えーと。
実は、他の部位へと繋がっているサブブロックの検知データが、『石コロ』……じゃなかった。隕石衝突直後から、色々と可笑しな数値を弾き出しておりまして……まぁ、そこのデータチャートの通りです。はい」
フェミクさんは空かさず、課長が偶々開いていたページのとある部分を指差していた。
「ふむ……」
「これは推測ですが、恐らく《F-メイン基盤》のどれかがひとつ、ぶっ壊れたんじゃないかと……」
ぶ、ぶっ壊れ……て、思わずそれって驚いちゃう報告だよぉお~!?
「故障箇所を特定しようにも、F-メイン基盤が相手では
それで、ですねぇ~……」
「それで? なんだね」
「ハッ! これの早急な『手配が必要』かと、思われます!」
「ふむ……その、交換が必要な
課長は資料の中にある、ひとつの部品資料を指差し、そう訊ねていた。
「ハッ! その通りであります!! 流石は課長。大したもので♪
その飲み込みの速さには、小生、只今物凄く感服しております!!」
か、感服って……。しかもその『小生』って、なに???
それにしても、フェミクさん……さっきから黙って聞いてると『キャラじゃない』、というか。『らしくない』、というか……。
しかも、そのわざとらしい『ヨイショ』は一体、なんなのよ??
外に居た時には、あれだけ散々バカだのなんだのと、文句ばかり上長連のことを言っていたクセにさ。よく言うよなぁ~。
「数値の方が滅茶苦茶……という事ですが。これについては、『出てくる数値にバラツキがある』という認識で、よろしいのですね?」
「はい! まさしくその通りであります!!」
資料の中に、それについてのデータチャートもあるので、それは一目瞭然だった。
「ふむ……となると、この部品の交換に合わせ。製造元メーカー側の立会いも必要になりますか……。
この際、いっそ
しかし、そこまでして貰えると、こちらとしても助かる。
どの道、一通りの色々な部品を取り揃える必要がありそうだし。その上、微調整なども必要でしょう……。
それに、これはとても我々だけで手に負える仕事量では、最早なさそうですね?」
「あ、はぃ。それらの手配も出来ましたら、えー……是非とも課長閣下に願いしたく!」
閣下って…物凄い、ゴマすり様だ……。
「ふむ。その方が、今度のことも踏まえ考えると、色々とよろしいでしょう。
わかりました。
こちらの方で、あとは上手く上の者や製造元と相談し合い、今後の対応と段取りの方は決めて置きますので。次の指示があるまで、君達はそれまでの間、少しでも体を休めて置いてください。
いいですね? それも大事な、仕事です」
「ハッ! 大感謝であります!! 課長 《大統領》、もう大好き♪」
「ハッハッハ。いやいや! 昨晩から大変、御苦労様でした」
うわッは!
フェミクさんの、裏での上司に対する違った一面の顔を知っているから。もぅここまで来ると、流石にバラエティーレベルだよぉおお~~……。
お、お腹イタイ……ウクク!
『ガタッ!』と音がするので隣を見ると、神垣先輩が急に寡黙にも、口を必死に両の手で押さえて立ち上がっていて。総務のヘイコックさんの所まで、サッと急ぎスタスタ歩いて行ったかと思うと。その場で腹を抱え、「クックック……ぶっふわぁあー!」と思い切り笑っていた。
ひ…一人だけ……ズルイ!
わたしも神垣先輩に合わせ、ヘイコックさんの所まで、笑いそうになる口を両手で押さえ行こうとしたら。丁度振り返るフェミクさんとばったり、そこで目と目が合ってしまった!?
「あ……うわあああああああああああああああーーッ!!!!!!!」
目を合わせるなり、フェミクさんがわたしを指差し、急に驚いた顔でそう叫んで来たのだ。
その瞬間、《【
恥ずかしいから、もぅ勘弁して欲しいよぉ~~!!
「もしかして、君ッ! あの、ハルカちゃんかぁあー??!」
「あ、はぁ……まぁ~なんというか、(残念ながら)当たりです。は、ハハ…」
穴があったら、今すぐにでも入って、隠れたい気分だよぉ~……。
「うっわああー! なんだよっ、想像していたよりも。めっちゃ、ホントにかっわいいじゃねぇ~かあー!!」
「え??」
言われ、思わず耳の先まで真っ赤になってしまう。
「今度、一回デートしようぜ!!」
「は? はぁ……」
余りにも突然なことなので、つい曖昧な感じで頷いてしまった。
「よっしゃああーー!!
では、今日はこれにて! ハルカちゃん、アディオ~ス!!」
「あ、あでぃお~……す?」
思いっきり喜んだかと思うと。元気一杯に手を振り振り、フェミクさんとハインさんの二人は肩を並べ笑い合いながら、管制室から賑やかに出ていった。
わたしとしては、別にそれにOKしたつもりはないんだけど。どうやら、フェミクさんからはそう受け取られてしまったみたい。
ま、参ったなぁあ~~……。
とんだ初顔合わせとなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます