第3話 FS-SICOM (4)

「いゃあ~~まあ~なんだな、ワハハ♪ 

改めましてッ! フェミック・ホープです。

因みに、27歳で独身! これからはハルカちゃんも、『フェミク』と気楽に呼んでくれていいからねぇ~っ? 

オレ、堅苦しいのはどうも昔から苦手なんだわ」

「…………」


 いつも、《【HOPホップ】中央管理管制室》には顔を出さず、現場近くにあるF-IS課の仮眠室に、このフェミック・ホープ技師とハインブレック・ヘルライト技師は控えている。

 一番初めの挨拶の時でさえ、忙しかったのか、VR画面越しで。しかも顔ひとつ見せず……それどころか、画面にはいきなり宇宙服とはいえ、お尻が映り込んでいた。

 わたしは思わず顔を真っ赤に染めると同時に、素早く背け、声くらいしか聞いていなかった。


 つまり、今がある意味で初対面となる。


「あ、はい! これからも、どうぞよろしくお願い致します。フェミクさん!」

「ハハ…しかし、ンーそれにしても……あれだなぁー」


「あれ、って言いますと??」

「あ、いや。いつも連絡応答だけの音声確認のみだったし。お互いに……顔とか何も分からなかったんだけど…さ。

ハルカちゃん、可愛い感じで良いなぁあ~♪なんてな。

今度からは、ちゃんとVRモニター使って応対することにしちゃおうかなぁああ~っ。ハハ♪」

「……」


 思っていたよりも、軽い人なのだろうか? そんな冗談めいた事を言っている。

 正直、宇宙服を着ているのだから、そんなにもハッキリと相手の顔なんて分からないと思うんだけど……。


「そんなコトよりも、フェミク……一つ確認する意味で聞きたいんだけど。

ただ隔離作業するのに、どうしてが必要になったんだよ??」


 神垣先輩が例の黒いカバンを差して、そうフェミクさんに聞いたのだ。

 フェミクさんは軽く肩を竦め見せ、それからため息混じりに頭を掻き掻き答えてくれた。


「ンー……それがさ。肝心の【SICOMサイコム】との通信が、まさかのアクセス不能だったのよ。

メインケーブルのどっかがやられてるか。どっかの基盤が最悪ぶっとんだか……それでが急遽必要になった、って訳。

あ、因みに。《自動防御システム》自体には、なんの問題もなかったぜ。全て正常だった。

時間がなくて、履歴ログ確認は不十分だったけどな。まぁ経験的にいって、あれなら大丈夫だろう」

「そっか……了解。でも後で報告書だけはちゃんと上げといてくれよ」


「うえぇええーー!!! そう言わずによ! そこは上手く、そっちで簡単に処理しといてくれないかなぁあ~? 

こっちは見た通り、徹夜確定ってな位の状態なんだからよぉ~! なっ♪」

「徹夜なら私らだって同じさ。なぁ? ハルカ」

「え? あ、まぁそれは……ハハ」



 確かに!



 徹夜もなにも、もう間もなく日が上がる気配だよぉ~……。多分、2時間も寝ていないと思うから、正直すでに眠むたいけど。ここで下手にうっかりと寝ちゃったら、かなりヤバイんだろうなぁ~? 


「くっそぉー! だったらうちの課長に、お前の方から頼んで置いてくれよぉーッ!!」

「ンなモン。あとで自分でやりな!」


「オレがあの管制室の雰囲気苦手なの、知ってるだろう? しかも、あの何を考えてるのか判らねぇ、うちの課長だぞ……」

「そうだったかぁ~? まあどの道、今回はちゃんと報告しといたがいいと、私は思うぞぅ?

問題が、問題だからねぇー……」


 それを聞いて、流石のフェミクさんも頭を抱え頷く。


「あー……わかったよ。くっそ、面倒臭ぇえ~なぁあー」

「……」

 このF-IS課には、つくづく面倒臭がり屋が多いらしい……。

 だけど、そうこう話している間もフェミク主任技師は手を休めることなく、仕事はちゃんと進めていて。次に、例の黒いカバンを開け、そこからケーブルを先ほど開けたばかりの第5ブロックにある鋼板の一箇所の中に備えてあるコンタクト・アクセス用端子に差し込み、《ゲート側》に《その黒いの》が認識されるのを確認すると素早くパスコードを入力し、VRモニターを開いていた。


 そこには一旦、《FS-SICOM》という文字が画面中央に表示され。間もなくそれと入れ替わるように、赤い警告文が表示され始め音声アナウンスまで鳴り響く――。



『警告します! 警告します!

このシステムは、《銀河惑星連合》発 法令第1392条により、適正に遵守されることが義務付けられています。

アクセス許可されたユーザー様以外の方は、これより10秒以内の退去を命じます。

尚、それを無視した際には相応の刑罰が適応され…………』



「はいはいはいッ! いいから早く、先へ進んでくれって! こっちは時間が惜しいんだよ」

 自動アナウンスによる女性の声でそう読まれていたが、間もなく、フェミクは次の画面へと進め、手の平を黒いカバンの中にある認証面に『バン!☆』と押し当てていた。


『声紋・静脈・網膜……《認証》確認、完了致しました。

登録ユーザー名、《フェミック・ホープ》様。これより先はフォールトトレラントの取り扱い上、大変に重要となりますので。周辺に関係者以外の方が居ないことを御確認の上、【パスコード】を入力し、どうぞお進みください』

「そんな暇は、今はねぇ~よ!! こっちは今、緊急事態だ!」


 フェミクさんはそれを無視するかのようにコマンド入力から手馴れた感じで、あっという間にシステム内に入り込み、キーを押す。


「よぉーし、ハイン! 無事、繋がってくれた。試しにそっちで操作してみてくれ!!」

『了解!』


 通信インカムを使い、恐らくはこのブロック内部でずっと待機していたのだろうと思われるハインブレック・ヘルライト主任技師と連絡を取り合っている。


「どうだぁあー!?」

『OK! やっと動いてくれたあー!!』


「よっしゃあーーッ! ちゃんと閉まったら、密閉度を観測して報告の方を頼むよ」

『ああ、わかった! あと悪いが、自動観測中の間。ちょいと目と体を休めておくよ……もぅ死にそうだわ、オレ』


「ワハハ。今夜は長期戦だからなぁ~っ。何せ、反対側もある♪ 休める時に休んで置くのも仕事の内だよぉお~~」

 フェミクさんはそう言うと通信を切り。次に、こちらを向いて口を開いた。


「ってな訳で、だ……。俺もちょっくら、その間に目を休めとくわ……悪いけど、そんな訳でミヤ。

その間にさ。この点検項目、全部見て回っといてくれねぇ~かなぁ? 

とても、オレらだけでは手が回らねぇーもんでさ。頼むよ!」

「ああ、分かったよ。仕方ないから、それくらいならやっといてやるよ」


「そりゃあ、助かるわ♪」

 神垣先輩は、フェミクさんから小型携帯端末を受け取っていた。

 それにしても……黒いカバンの中身は、意外なことに、ただのVRシステム仕様の端末だった。セキュリティーは何故か厳重にされてあるみたいだけど。


「こら、ハルカ! 余りそれを、覗き込むんじゃないよ」

「え? あ、はぃ……どうもすみません…」


 そんな二人の様子に気づき、フェミクさんは閉じていた目を一旦開いて、こちらへ笑顔を見せている。


「『』がナニか気になるのかい? ハルカちゃん」

「え? あ、まぁ……」

 気になるのか、気にならないのか? と問われれば、そりゃあ~っ当然、気になりはする。

 そんなわたしの反応を見て、フェミクさんは暫し考えた様子を見せたあと。急に神垣先輩の方を向き、『悪いが、説明してやってくれ』って感じの様子を見せていた。

 それを受けて、神垣先輩は面倒臭そうにため息をつき口を開く。


「しょうがないなぁー……本当は、コレ。入社5年目以降の者。それも一部適任者にしか、その存在を教えちゃいけない決まりなんだぞぉ……私だって、コイツの存在を知ったのは、ついこの前なんだからな」

「え??」


 神垣先輩の話を聞いて驚き、フェミクさんの方を向いて確認すると。フェミクさんは同じくため息をつき。こちらへ真剣な眼差しを向け、口を開いてくる。


「そうは言ったって、もうモンは仕方がないさ。だろう?

知った以上は、口外されちゃ、それこそ困る。だから、『コイツの危険性』をちゃんと理解し認識して貰うためにも、説明はちゃんとして置いた方が寧ろいい。

あとでキチンとルール通りに、誓約書も書いて貰うさ♪」

「ふむ……」


 誓約書って……確か入所時にも沢山書かされた気がするけど。誓約書を改めて書かないと駄目なほど、コレって外部に漏らすと相当に『ヤバイ』危ないものなんだろうな?と思う。


 なんだか急に、怖くなってきたよぉ~……。


 フェミク主任技師はそれで再び目を瞑り、間もなくイビキをかいていた。

 寝た振りなのか、それとも本当に寝てしまったのか、よくは分からないけど……僅か数秒後。なにせ、びっくりするほどに早かった。

 神垣先輩はため息をつき、それから改めてこちらを向き、口を開いてくる。


「この設備全体が《フォールトトレラント設計》で作られているのは、お前も知っているだろう?」

「あ、はぃ」


「フォールトトレラントでは、実は『テロ対策』もされていてな。

例えば、部分的にショートカットでどこかを電気的に動かそうとしても、それをフォールトトレラントシステムが常時監視しているから、電気的には動く筈のモノでも動かない仕様となっているんだ」


 あ、え……ええ???


「つまり、だ……重要設備に限らず。ありとあらゆる動的部品の間には、《フォールトトレラント機器》が必ずムダじゃねぇ~の? って思われるほどに、沢山取り付けられてあるんだよ」

 驚くことに、寝たと思っていたフェミクさんが、そこから急に口を開き続きを教えてくれたのだ。

 でも、両腕を頭の後ろで組み、寝転んでいて目は閉じたまま。

 それから更に口を開き、こう繋げてきた。


「だからな。たかが気密性を高め、安全を確保するための扉ひとつ動かすのにも。フォールトトレラントシステムの本体がある、電脳サーバーホスト【SICOMサイコム】に、一々お伺いを立てないといけなくなる。

作業者の安全上、かなりの問題がありそうなルールなんだが。何よりも設備本体のした結果、こうなっている。

『片方を立てたら、もう片方が立たなくなっちゃった』

って訳なんだなぁ~コレが。参ったねぇ~。

面倒臭いが、大体の概要はそんな感じだ。が、今回みたいにその肝心の【SICOMサイコム】と通信が取れなくなった場合には、だ……」


 そこで、フェミクさんは突然に目を鋭く開け、急に起き上がると。真剣な眼差しのまま、黒い例のカバンを指差し言う。


「『』で対応をする、って訳だよ。

この意味、分かるかい?」

「あ、えーっと……」

 分かるような、分からないような……というか、頭が正直いってまだついていけてない。

 雰囲気的には分かった気はするけど、どうも今ひとつだ。これは、ちゃんと改めて勉強する必要がありそうだよぉ~……。


 そうやって頭を悩ませているわたしを見て、フェミクさんは頭を掻き悩みながらため息混じりに再び口を開いてくる。


「ンー……つまりは、な。逆に言うと、『コイツ』があれば。、ってコトさ」

「……あ!」

 そこまでハッキリと言われて、ようやくその『肝心な部分』にわたしは思い当たった。


「お! わかってくれたか?」

「あ、はい! 兎に角コレが、物凄く『』ってコトが……とても…。

このコトは、絶対に、誰にも言いませんのでご安心ください!!」


「よっし!! OK! OK! それだけで今は十分だよ。ハッハッハ♪」

 それだけを言うと、フェミク主任技師は高笑いをし。それから次に、改まった表情でこちらを見る。 


「でも念のため、再度言っとくが……この事は、漏らすんじゃねぇぞぉーーッ!!! てめぇー!」

「は……──はひッ…!!」


 こ、こわい……。


 その時に瞬間見せたフェミク主任技師の目は、真剣に血走っていて、とても怖いと正直に感じるハルカであった……。




 『クレイドル』 ―時空ホップのハルカ―

  《第三話、【FS-SICOMサイコム】》 -おわり-


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