第3話 FS-SICOM (3)
「うおーい、フェミーク!」
第5ブロックと第6ブロックの境辺りに在る
しかも、相手は後ろ向き……。
よくもまあ~宇宙服姿の人相手に判別が出来るものだ、と関心していたら。良く視ると、初め斑だと思っていたその宇宙服は、元々基本色の白にオレンジと黄色い蛍光ラインが三本入った一般的なエンジニア用のものらしく。どうやらメンテナンス作業などで汚れて
しかも、そればかりでなく、所々にイタズラとしか思えない子供っぽい落書きまでされてあったのだ。
こんなんじゃ、万が一宇宙空間に投げ出され遭難した場合に、助かるものも助からなくなるんじゃないかと心配になる。
わたしは呆れ顔に、その人を見つめた。そして同時に、先程の疑問点も解決する。
なるほど、コレだと後ろからでも分かる訳だねぇー……ハ、はは…。
「いよぉおー! ハハ。誰かと思えば、ミヤかぁ~? わざわざ、こんな遠いトコまで遥々悪かったなぁー!」
「全くだよ……こんな心臓に悪いモン運ばせやがって! 後で何か奢れよぉ~」
「分かってる、分かってるよっ♪」
「その言葉、忘れんなぁ~っ」
神垣先輩はそう言うと、黒いカバンの手錠を自分で外し。そのカバンを手渡していた。
それを受け取ったフェミクことフェミック・ホープ主任技師は、自分の腰辺りから伸びている三重のワイヤーに、その手錠を三つも掛けていたので驚いてしまう。
コレって、そんなにも重要なモノなのだろうか??
わたしがそんな疑問を感じていると、神垣先輩が
「それにしても、隕石が突っ込んだ場所は、ここよりもまだ随分と先だろうに。どうして、こんなトコで作業なんかやってるんだよ?
そもそも自動防御システムの方は、結果どうだったんだぁ?」
「ン~……まぁソレなんだが……実は上からの急な命令でなぁ~。なんでも、あの石コロ(隕石)を明日中に、それも早急に引き抜きたいらしいんだとよ。
で……そうなると、だ。
今晩中に、第7ブロックとこっちを隔離しとかないと流石に拙い、ってコトになる訳だろう?
でないと、あっちは大穴が空いてるからなぁ~。シールド皮膜があるといった所で、気密性なんか当然に無くなる。
ってなると、『石ころ』を引き抜いた途端。この中身全部が、もう見事なくらいスポーンと急激な気圧の差で外へ吸い出されちまうだろう~?
という訳でな、今は『隔離分離作業の真っ最中!』って訳だよ。
んで、因みに、
ざっと、直径でいうと約200メートルは近い陥没規模なんじゃねぇ~のかなぁあ~? 想像以上に酷い。
流石に参ったよ……これには、な」
にっ、ひゃ、200メートル!??
「……正直いって、今はかなりダルイ心境……。この真下にある、
それからフェミクさんは、第5ブロック鋼板の一部を取り外し始めていた。
「あのぅ……」
「あん?」
「これだけの被害だと。やはりもぅ最悪、駄目なのでしょうか……? この子」
わたしは、思わず心配になって、フェミク技師にそう訊いていたのだ。
「この子ぉ……? ああ、もしかして【
お前、なんか変わった表現の仕方する奴だな~」
「あ、ハハ……」
言われて見て気付いたけど、確かに変だったかも?
「まあな~。喜べる状況ではないんだが、あの石コロ(隕石)のぶつかり方っていったら、最悪なくらいひっでぇ~モンだったが。幸い、当たりどころ自体は上手いコト最高に良くってなぁあー」
「当たり、どころ……??」
「ああ。丁度、外郭部D鋼板のド真ん中に良くも悪くもストライクしていたんだよ。お陰で、周辺の鋼板への影響は御覧の通り悲惨なモンだが……コイツの命運を決める、メインフレームとユニット部自体は大丈夫なんじゃねぇ~かなぁ? とは、今のトコロ思っちゃいるよ。
一応、この【HOP】ゲートの構造を簡単に説明すっとなぁー。
円形の軸となる《メインフレーム》と、それに取り付けられた《512基の
もっとも、他にも小間かなモンを混ぜ込み含め考えたら、相当に面倒臭ぇー感じの奴なんだがな。その中で、もっとも基本となる基幹部品といったら、大体そうしたモンだ。
だから、メインフレームとユニット部さえ問題がなければ、基本的には大丈夫な筈さ。
というか、オレたちがそこはなんとかする! それが仕事だからな。
まあ今は、ちゃんと中まで検査機使って測量して調べてねぇ~からね。まだ正確なコトなんて何ひとつ言えねぇけどなぁ……。
オレたちは、そもそもそれを調べようと思って来たってのに。
『明日、《連合政府関係者》が視察で訪れる』
『見た目が悪いから、さっさと石(隕石)をどけて
ってんだからよぉー! 全く、上の連中と来たらなにを考えてんだか。オレにはサッパリ訳がわかんねぇーぜ!」
「あ、はぁ……」
途中から話が難しくて混乱してきたけど、どうやら、大丈夫らしい…??
ダメだ……自分の中で、まだちゃんと整理出来ていない。頭もいたいし…。
これはどうも、また帰って資料を調べ直して勉強をする必要がありそうだ。
「しっかし、何よりもびっくりするのはな。うちの自動防御システムも、連合艦隊の防御システムすらも奇跡的に掻い潜って来たあの石コロがよぅ~。
運よく、一番コイツにとって影響の少ないD鋼板に、しかも幸いにも『ストライク』してくれたんだからなぁあ~!
流石のオレも、神様ってモノの存在を信じてみたくなっちゃったよ。ハハハ♪」
「あ、それについてはですねぇー。……え??」
『実は、テロの可能性がある』ということを、わたしはフェミクさんに伝えようとした。すると、神垣先輩がそれを手でサッと突如として制して来たのだ。
『まだ公にされていないことを、無闇に言うべきではない』と、神垣先輩はそう言いた気にこちらへ真剣な表情を向け、そのまま黙って左右に顔を振っている。
それを見て、わたしは途端に苦笑い、困り顔に口篭るしかなかった。
「……なんだよ? 本当は他にも、なにかあったんじゃねぇえーのかぁあ?」
「……」
当然だろうけど。フェミクさんは物凄く不機嫌な表情へとたちまち変え、こちらを疑わしく見つめていた。
「あ、ハハ♪ すみません……なんでもないです…」
「……チッ! これだから
つ、つくえかじり組み……って?!
フェミクさんはそれで、「もぅいいや、兎に角こっちは今、忙しいんだよ!」と言い、自分の仕事に集中し続けた。
実はさっきから見ていて思うんだけど、口はずっと動いていても、手は止めない感じで……実は凄く真面目な人なんだな、っていうのが感じられた。
「あ、うわああぁあーー!!! っていうか、お前っ、一体だれだよッ?! 何者だあーっ!!?」
「……ハ?」
急にフェミクさんがこちらを指差し、そう言って来たのだ。
今頃になって、それはないだろう……と思う。
隣に居る神垣先輩も、それには顔に手を当て呆れた様子だ。
「えーっと……あのですね。改めまして! わたしは先々週、新しく配属されました未来ハルカです。
どうぞ、よろしくお願い致します!」
そう改まって挨拶すると、フェミクさんはたちまち落ち着いた様子に変わった。
「あ……あぁ。あれ? もしかして、あのハルカちゃん??」
「……」
『ちゃん』は余計だと思うんだけど……。
「はぁ……まあ…恐らくその、ハルカです」
「そっか、ハハ♪ いつも音声だけの応対だったからさ、まるでわかんなかったわ。ワハハ!」
そう言い、自分の宇宙服の頭の部分を軽くポンポンと叩き苦笑っている。するとそこが、
あらら……。
油汚れ? そんな訳ないよね。
此処が宇宙空間ということもあるので、後々その汚れが不思議に思い訊いてみたら、自動防衛システムのメガハイパーレールガンを調べているうちに付着した煤汚れらしい。摩擦熱で生じた
それにしても、いくら音声だけにしろ、普通は直ぐに察してもいい気がするよ。
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