第3話 FS-SICOM (2)
「よぉ~し、着いた! ハルカ、行くぞ」
「あ、はい!」
それは無重力であることもあり、簡単に宙をふわりと浮いた。
そのあと直ぐに、神垣先輩は軽く足元を蹴り、ゲート外輪部に設置されてある移動用リフトまで素早く一気に見事乗り込む。
「……凄い」
あんなこと、今の私にはとても無理だ。有り得ないよ……。
そのリフトは、最大で5人まで乗れる大きさだった。但し、屋根はない。レールが前後に二つ並んでおり、ゲート外輪を360度周回出来る仕様となっている。
これは、通常メンテナンスなどで利用されているリフトだ。
「ハルカ! 一応、気をつけろよ! 勢い余ってどっかへ飛んで行ったって、助けねぇーからなぁあー!」
「そんなこと言わず。その時は、ちゃんと助けてくださいよぉ~……」
ゴンドラに乗る時とは大違いで、随分と空間がムダに広い……というか、宇宙常設船到着と共に、手摺りと床が時間制限ありで飛び出していたのだが。それは最小限程度でしかなかった。
しかも、さっきまで居た
床も、中央部分以外はスカスカの鉄格子のみ。
めちゃ怖過ぎるよぉ~~~……これ!
わたしは仕方なく無難に、腕辺りにあるスイッチを押す。それで足元より、多くの磁力が発生し、床に張り付くのだ。
わたしはそれを数度踏みつけ確かめ間違いないことを確認し、リフトまで続く中央を恐る恐る一歩一歩着実に歩き向かう。
「わは! つまんないけど、まぁいいや。一応それが、基本マニュアルだからな。
ほらほら早く急げぇ~」
「つ、つまんないってどういう意味なんですかぁ!? まったく、ホントにもぅ~……」
神垣先輩は既にリフトの上で、楽しそうに笑いながらそんなコトを言っている。
こっちは命懸けなのに。そんなに急げる訳がないよ。膝だって、今もガクガクと震えていて、本当に怖い。
それにしても……。
「ずっと気になってはいたんですけど。その黒いのは、なんですかぁ?」
リフトまであと残り3メートルといった所で、わたしは何となくそう聞いた。
因みに、スペーススーツ同士の専用通信回線なので、会話はお互い鮮明に聞こえる。
わたしが今聞いたその黒い鞄は、管理室を出る時から神垣先輩が手にしている物だ。
1メートル四方くらいはある大きな黒いそのカバンには、【FS-SICOM】と表に薄く書かれてあった。
「あ? コレかぁ? コイツはなぁあ~」
そこで神垣先輩は楽し気にニッと笑い、口を開く。
「この宇宙、そのものだよ♪」
「──はあっ?」
聞いた自分がバカだった……。
わたしは思わず頭を抱え込み、そう思う。
なんにせよ、なんとか無事にリフトまで到着出来たし、まあいっか?
◇ ◇ ◇
リフトはゴンドラと違ってゆっくりとした移動で、普通に歩くのとそう変わりないスピードだった。
もちろん、『地上で歩いている時に比べて』って意味でだけど。
目的地である第7ブロックまでもう少しか? と思われた時、リフトは急にそこで止まり、目の前に何かが表示された。
『この先、事故発生により、移動禁止エリアです』
それは、危険を知らせるVR映像だった。
画面が突如として放出し、赤い文字でそのように表示されている。
「うっわあ~嘘だろう! ここってまだ、第4ブロックだぞ。ここから先、歩けってかぁ!?」
神垣先輩が言う通り、丁度リフトが止まった場所の右手鋼板には『4-G』と大きく蛍光色で文字が書かれてあった。
つまりここは、第4ブロックの外郭部G鋼板。
第4ブロックから第7ブロックまで歩くとなると、かなり大変なことになる。軽く百メートル以上はあるからだ。
地上での移動ならたいしたことのない距離だけど、宇宙での移動だと大変なものがある。
「あ…あれ……? もしかして、あの辺りでしょうか?」
「ン? まさか……」
わたしは右斜め前方で人が数人居るのを見て、そう言ったのだ。
「確かに……誰か居るなぁー」
リフトから内側に外れた位置で6名くらいの人が作業をやっている。
ゲートの頂上である外輪部から外れると、ゆるやかな円形を描くように鋼板が曲がっているので、先が見え辛く、それで気づくのが遅れた。
見えるといっても、上半身……肩から上くらいだ。中には、頭だけ見えている人も居る。
あの場所が第7ブロックのD鋼板だとすると、案外近いかも? 思っていたよりも小規模なのかもしれない。
わたしがそう期待し、ホッと安心するのも束の間。
「しっかし、あそこは位置的に第5ブロックじゃないのかぁ~? まぁ、とにかく行ってみるしかないか……」
「──えっ!!?」
彼処が第5ブロック?
というコトは、想像していた通りの規模?? いや、それ以上ってことなのだろうか?
なんだか、とても不安な気持ちになってしまう。
◇ ◇ ◇
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