第3話 《FS-SICOM(サイコム)》
第3話 FS-SICOM (1)
「ハルカ、こっちだ!」
神垣先輩がそう言い、出入口から右側を指した。見ると、数十メートル先に箱型の乗り物が幾つか並んであった。
あれは確か、移動ルートが決まって動く
そうこうしている間に、神垣先輩は要領よく、この底重力の中を素早く足元を蹴り移動していく。
此処はもう宇宙空間であるが、
器用な人であれば、今の神垣先輩のように脚で床面を蹴って、一気に進むことも可能だ。
わたしも先輩を追い掛けるため、その場で軽くステップを踏み、其処へと向かった。
が、その間に天井へ勢い余って頭をぶつけたり、逆に床へ腹を打ったり、その場でクルクル回ったりと大変な目に遭ってしまう。
ここへ配属される前、実技講習は受けていた筈なのに、全くというほど役立ってない。トホホだ。
そうやってなんとか無事(?)に辿り着いたが、このたった30メートルが物凄く遠く感じた。
息も既に切れ切れで、左手遠くに在るゲートの方を見つめ、思わずため息が出る。
彼処に見える亜空間ゲートまで、想像以上にあるんだという事を此処で改めて実感させられたからだ。
因みに、そんなわたしを見て、なんだか実に楽しそうに失笑している人が居られますよ……。
もちろん、神垣先輩だ。
「くっくっ。お前、器用な奴だと思ってたが、案外不器用なんだなぁ?」
「ハハ……はぃ…。これでも努力はしたのですが、コツがなかなか掴めなくて」
「心配すんな。こんなのは慣れだよ、慣れ。
が、油断と無茶だけはするなよ。これから向かう先は、本物の宇宙空間だ。
一歩間違えれば、コレだからな」
神垣先輩はそう言って親指を立て、自分の首筋に当て、左右横へ大きくスッと引いて見せた。
それは、『死』を意味してるのだと思う。
わたしはゾッとして、慌ててゴンドラ内に乗り込んだ。
セキュリティーカードをサッと素早く通し。次に、開いたVRモニター画面でパスコード認証を行い、【HOP】ゲート1番基をルート移動決定する。
すると間もなく、
それへ間もなく、《銀河惑星連合艦隊所属》と思われる
その対応は、驚くほどに素早かった。
因みに、UAFAは無人戦闘機で、基本的に人工知能もしくは軍所属の誰かが遠隔操作している機体だ。
多くの場合、銀河惑星連合艦隊が持つ《基幹マスター級指揮艦船》内にある戦略・戦術ターミナルセンターにて、数百台と並ぶ《遠隔コクピット》を用い操作を行う。
しかも半自動操縦対応なので、数機分の操作を一人で行うことも可能らしい。
わたしはその機体のカメラアイを徐に見つめ、思わず作り笑いを苦笑気味に向けた。
UAFAは、それで呆れたのか? 直ぐに、他へ飛び去って行った。いや、本当にそうなのかは判らないが。
その向かう先に、
レヴラドールとは、レヴラ・ホールディング社が開発した《局地制圧用機動兵器(ascendancy task force)》のことで。元々狩猟犬であるラブラドール・レトリバーの愛好者だった創始者が、この名前に決めたとされる。
その性能もまさに狩猟犬のそれにまさる機動性能を持ち、全高3メートルほどで、人が通れる場所であればどこへでもいける。
もちろん細かな仕様は、その機体の種類により様々であるらしい。
これに対し
故に、光速で逃げる海賊なども、単機にて追尾迎撃可能な性能を誇っている。
「今さっきのレヴラドールって……重戦装備タイプの
ここには、あんな指揮艦船&拠点制圧用の
「まぁなー……ここに駐留している銀河惑星連合艦隊規模の戦力なら、【州合体】のひとつくらい難なく占領してしまえるらしいよ。
聞いてびっくりだろ?」
「州合体をひとつ……」
【州合体】とは、一つの主惑星(メイン・プラネット)と多数の資源惑星群を保有する自立した惑星集合体のことである。
今更な話だけど、《銀河惑星連合》とは、そうした64もある州合体をまとめた《連合組織》の総称で。各、州合体から代表者を銀河惑星連合の首都星ファシスに集め、政治を行っている。
そうした事情もあり、各州合体ごとに自由な国家体制が乱立する。
が、基本的に自由資本主義共和体制が主として、この時代でも今とそう変わりなく執り行われていた。
《銀河惑星連合》本部がある首都星ファシスがある州合体も、自由資本主義共和議会体制をベースとして、政治が執り行われている。
「この設備には基本、アフィリエイト社製の最新鋭機が配備されていてな。
さっきのUAFAだって、新型の《UF21―SB》ってトコなんじゃないのかぁ?」
「《UF21―SB》っていうと……スティングブレイド、でしたっけ??」
そう難なく答えると、神垣先輩は呆れた様子をわたしに向け、次に口を開いた。
「お前、よくそんなコトまで知ってるモンだなぁー……。実はハルカ、お前、軍事マニアか??」
ぐ、軍事マニア……。
「違いますよ! わたしの知り合いに、そういうのに詳しい人が居て。それで偶々知っていただけのコトです!☆」
友人であるエリ・ランカスターは、本人も認める軍事オタクだ。
なので、部屋の中にはそういう雑誌とか、本来ならある筈のない秘密資料なんかも部屋の中で普通に転がっていたりする。
そうした雑誌や資料類を、わたしは以前にぼんやりと眺め見ていたことがある。その為、偶々知っていたに他ならない。
「ハハ。まぁ~そんな必死になるほどのコトじゃないんだし、そう気にすんなって♪
軍事マニアにだって、人権くらいはちゃんとある!」
「──じ……!? ちょっ、流石に気にしますよっ! ホントにそんなんじゃないですから!!」
「ハハハ。わかった、わかった♪」
『わかった』、ってさ……一体なにがどぅわかったのやら。何だか心配になる。
「しっかし、銀河惑星連合の奴らも必死だなぁ~……。ああやって大掛かりに探し回っている、ってコトは。『まだ犯人は捕まっていない』、ってことなのかぁ?」
「――え?!」
そう言えば、その実行犯が捕まった、という報告はまだ受けていない。
それに、この件がテロであった可能性があること自体、わたしと神垣先輩を除けば軍関係者や一部の者しか知り得ない情報なのだろう……。
今のUAFAやレヴラドールの緊迫した動きを見たことで、その事が急にリアルなものとして、わたしの中で実感させられた。
そうこうしている内に、《【HOP】ゲート》間近まで迫っていた。
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