第2話 《HOP》の生!(6)
「ま、まさか……ス…
上司である神垣先輩の後を黙って着いて行くと、どうにも見覚えのある一室へと向かっていることに気づいた。
その入り口には、【
「ということは、当然、宇宙服を着なくちゃいけないんですよねっ?」
「ああ、着たくなかったら別に無理して着なくてもいいんだぞぉ~っ? まぁ……確実に死ぬけどな?」
ポカンとその入り口でそれを眺めていたわたしを、適当なところで放置し、神垣先輩は《セキュリティーカード》を通し生体認証を受けると、その中へと慌しく入っていく。
「き、着ますよ! 当然、もちろん!!」
わたしも慌ててセキュリティー認証を行い、神垣先輩を直ぐに追いかけて中へと入る。
入り口は、機密性を維持する為に二重扉となっていた。
神垣先輩はそんなわたしを振り返り見て、ニヤリ顔で笑い言う。
「ハハ、そいつは残念だなぁ~っ。これから楽しい理科の実験が出来るのかと、こっちはワクワクドキドキしていた、ってのに♪」
「なっ!? そんな結果の見えている実験なんかやって、神垣先輩は何が楽しいんですかぁ?」
「いや、お前がもがき苦しむ姿がなんとも……ゾクゾク?」
「──ちょっ!?」
それは幾らなんでも悪趣味過ぎだよぅ~……。この人と付き合っていると、ため息が尽きないよ、ホントにもぅ~。
それにしても、宇宙服なんて着るのは研修当時以来になる。なんというか、思わず緊張してしまうなぁ〰️。
この【
ロッカーとはいっても、これは全自動式の保管庫のようなもので。定期的な宇宙服の全点検やクリーニング機能が備えられている画期的なものだ。そうした機能を持つ背丈3メートルはあるロッカーがズラリと、この室内で十数列所狭しに並んでいて。正直、自分のロッカーの場所をなんとなくでしか覚えていなかったのだが……意外にも直ぐに見つかった。
「えーっと、どうやるんだったっけ……?」
わたしは暫し考え、それからふと思い出し。ロッカー正面にある認証画面へ、恐る恐る手の平をあてる。
すると、そのロッカーはゆっくりとスライドして開き、わたしは内側にもある指紋認証ボタンを「ンー……確か『コレ』、だったよね?」と思いながら押す。
と、ロッカーの中にあった宇宙服が自動的にスーッと着やすい場所まで飛び出して来た。
わたしはそれを見つめ、今更ながらに感動をする。赤いラインと蛍光色の黄色と青が入った、自分専用のホワイトピンク系の蛍光色をした宇宙服だ!
こ、これだよぉ! これが堪らなく、めちゃめちゃカッコいいし!
「ホラ、早くしろよ! 本当に実験、始めちゃうぞぉー!! そぅ~ら! 10・9……」
「わ、わかってますよ! もう少し待っててください!! って、ちょっとぉー!! なに、勝手に数えてんですかぁあー!?」
こっちはもう少し感動に浸って居たかったのに、ひどいよ! そもそもまだ慣れてもいない宇宙服をこれから着ようとしているのに、何故かテンカウントを始めるなんて……。
わたしは管理室の制服を脱いで、少し気恥ずかしいけど、周りを気にしながら下着も脱ぎ全裸となる。
代わりに、専用の下着を素早く着ける。これはオムツ代わりにもなる使い捨て。
脱いだ服はロッカー内に収め、それからその宇宙服がある前の段へと昇り、足のつま先から突っ込み着て装着。そのあと《自動装着》ボタンを押す。
すると、二重構造のファスナーが自動的に閉まり最後にロックされる。
因みに、自分用の宇宙服は中身の方がダブダブで、着た後に腕辺りのコンタクト画面を押し《内部装着》ボタンを押すと、自分の体型に合わせ、中身の方だけ密着する二重構造となっている。
頭の部分はバイクのヘルメットを一回り大きくした程度で、被った後に45度回転させ『カチリ☆』と音がなると同時にプシュ☆と自動的に密封され。その前面にVRモニターみたいなメニューが同じく自動表示された。
――と、ほぼ同時に赤い枠でエラー画面が表示され音声アナウンスが鳴り響く。
『【LV】が未装着です。ご注意ください』
「や……やばい!! 忘れてた!?」
わたしは空かさず神垣先輩の直ぐ傍まで走り向かい、そこに沢山並べてある【Liquid Ventilation】と表示された薬液の入った四角いカセットボンベの一つを素早く選んで取ると。腰辺りにある厚手のベルトみたいな専用のユニットホルダーに付いてある【LV】と表示されたカセットを取り外し、代わりにその薬液の入ったカセットボンベを素早く挿し込みスライドさせる。
すると、赤ランプが緑ランプへと変わった。
「……2……1……0だ!」
「──ちょっ!!!?」
テンカウント直後、扉を本当に開け始めるから、冗談にしても、とても笑えそうにない。
わたしは慌て、ヘルメットのVR射出機から放出され表示されたメニュー欄の中から【LV注入】を捜し出し、素早く押す!
すると、ヘルメット内に液体が入り始めた。
液体換気だ。
肺の中までこの薬液で満たし、呼吸をする。こちらの方がコンパクトでより安全である為、現在では酸素ボンベの変わりに、この【LV】を使う方法が一般的に取り入れられている。
慣れないと何度も吐いてしまいそうになるけど、これは苺味なのでなんとか我慢は出来る。残量確認も問題はない。
大丈夫、ちゃんと息も出来てる!!
なんとか間に合ってよかった!
……と思いつつ、扉の方へ目を向けると、そこの扉は外郭部への進入口に過ぎなかった。
通路状の三重扉の向こう側が、宇宙だ。
考えてみたら…まあそりゃあ、そうか? この部屋の隣がいきなり宇宙だったら、この中は今頃大変なコトになっているだろうし。
はぁ~……。
それは、そうと……出入り口近くに立つ上司である神垣先輩は、その時もがき慌て苦しむこちらの様子を見つめ、只今とても楽しそうに腹を抱えながら笑っておられますよ……。
悪趣味だ……この人、ホントに…!
《テラ・フロート》外郭部にある空気密度変換室のハッチを開け外へ出ると、鋼鉄製の枠はあるものの、そこはもう宇宙空間が当たり前のように広がっていた。
今更だけど《【HOP】ゲート》とか色々と“生”で見える!
「うっわあぁあああ───!! 凄い! すごぉーーーー!!」
白銀の金属製の外郭部鋼板は、ひとつ一つ鏡面に磨き上げられていて。その表面は宇宙色に染められ、まるでこの静寂な宇宙の中に溶け込んでいるかのようですらあった。
しかし、その存在を示すかの様に、外輪で幾つもの明るい緑色と白色と赤色の照明が交互に点滅を繰り返している。
内径部だけで1キロメートルはある、巨大な《【HOP】ゲート》。それが僅か20キロほど先でその姿を見せていたのだ。
この距離からでも、その迫力は十分に感じられる。
「な…生のゲートだ! 生だよ……【
わたしは思わずそう叫んでいた。
それを聞いて神垣先輩は呆れ顔を見せながらも苦笑い言う。
「ホップの生ぁあ~? なんか聞いてるだけで、ゴクゴクと美味しそうな響きだなぁ~そりゃあ♪」
「って……あの、そっちのホップじゃないし…自分、これでもまだ一応は未成年なんですけど?」
まあ、そんなのはどうでもいいかぁ~。それよりも、つくづく凄いよぉこれは!
ここに来て、初めてみる生の大宇宙と《【HOP】施設群》の素晴らしさに、改めて感動をするハルカであった。
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