第2話 《HOP》の生!(5)

「すみません、神垣先輩! それで、状況は?!」

 到着してみると《【HOPホップ】中央管理管制室》内は、とても張つめた異様な空気に包まれていた。次第に心臓が高鳴り緊張感沸いてくる。

 一段上がった所にある中央管理監視区域バックスペース エリアに、上長である神垣先輩が居て、忙しそうに通信インカムを装着しVRモニター画面を相手に、まるで格闘さながら慌ただしく対応をやっていた。

 わたしはその傍まで急いで行き、VRモニターを覗き込み訊いた。

「どうなのですか、先輩っ!」

「心配はするな。問題はない。この私がチャチャッと何とかしてやるよ! ……と、いつものように言いたいトコロだけど。生憎と、相当によろしくないねぇ~……。

状況は、《【HOP】ゲート》の1番基に未確認物質が衝突。それにより亀裂が発生。第7ブロック外部鋼板D区画だから、運行自体には影響ない筈だけど。念の為、他の《【HOP】ゲート》で避難措置バックアップをし、ゲート1番基は現在 だよ」


 VRモニター範囲上に、その亀裂箇所が幾つも視点を変えた形で表示されていた。

 その中の一つである拡大画面を見ると、《隕石》の様なモノが衝突していることが目視確認出来る。ものの見事に、外部鋼板へが突き刺さっていたのだ。


「まさか…そん…な……! こんなことが!?」


 通常、【HOP】ゲートやその他の関連施設群それぞれには、外部鋼板を守る為にシールド皮膜が張られている。そのシールド皮膜でも守りきれない大きな異物に対しては、《自動防御システム》によって、速やかに対処する仕組みとなっていた。

 しかもこの《【HOP】チャリアビティーポリス》に至っては、《銀河惑星連合艦隊》との連携も取られているので、隕石の衝突などという初歩的事故はとても信じられない、最早事件ですらあった。


「では、シールド機能が働いてなかった……というコトでしょうか?」

「いや。其処は私も疑って、直ぐにうちの《解析部》に確認したんだが、『異常は検出されていない』『あり得ないコトだ』とよ。

そもそもこの隕石の大きさからいって、自動防御システムが対処しなかったコトの方に、寧ろ問題がある、と言えるからね?

今、それの確認をフェミクとハインが現場でやってくれているところ、なんだけど……」


 フェミクことフェミック・ホープとハインことハインブレック・ヘルライトは、ハルカ達と同じ《フォールトトレラント―IS課》の一員で。主に、現場の点検・修理保全を担当している【専門実戦部隊】の二人組み。とても信頼出来る人達である。


「しかし、どうもな……この、短距離から人為的に打ち込まれた可能性があるんだよ」

「え?」

 神垣先輩はそう言うと、VRモニターにその根拠となる映像を流し始めた。


 それは、【HOP】ゲートを観察している監視カメラからの映像である。その映像を見ると、当該隕石は短距離の位置から何か小型の艦船の様なものから打ち込まれていた。その様子を監視カメラが見事に映像として捉えていたのだ。


「履歴を確認して、ついさっき分かったばかりなんだがな。この亜空間ゲートへの異常ともいえる接近に対し、自動的に警告はちゃんと《発信》されていた。それをし接近しての、だ。

警備保安部にもこの情報は当然に上がっている筈だが。今の所、これについての具体的なアナウンスは、まだ上がって来ていない」

「まさか……テロ、ってことは?」


「……さあなぁ~? が、それも有り得ないコトではないさ」

「……」

 一瞬だけだったが、神垣先輩は何か言葉を呑み込んだように見えた。でも、そのことには追及せず、わたしは次の質問をした。


「あの、それで、《銀河惑星連合艦隊》のコレに対する反応は?」

「まだ未確認だし。そんな権限は、流石に無いよ。、ね」

 先輩は横目でわたしをそっと見つめ、それから肩を竦めてそう言い、更にこう続ける。


「そもそもこうした小型艇スペースボートの行き来は、今更つぅーか、この施設群内では頻繁だからなぁ~っ。気づいてはいたのかも知れないが。まさかこんなコトになるだなんて、誰も予想してなかったんじゃないか?」

「そぅ……ですよね…」

 この問題となる小型艇は、作業用の小型艇ほどしかない大きさだった。こういった宇宙艇がこの施設群内で行き来するのは、然したることのない全く日常的な光景で。誰もが普段目にしている本当に日常そのもの。それら全てを一々チェックしていては、切りがないくらいだ。


 ただ、ということは。ここの施設群で正式登録されている小型艇ではない、ということになる。つまり、というコトに。


 しかし、幾ら自動防御システムでも、人が搭乗している可能性のある小型艇に対して、 無差別に発砲するほど非人道的に作られていない。こうした対応には《警備保安部》に対し、即時【緊急出動要請】がなされ、これにあたる。そういうルールだから。


 但し、それでその犯人を捕らえることは出来ても、この事故(?)そのものを事前に止めることは不可能に近い。というか、ほぼ無理だろう。

 これがもしもテロだとすれば、それを熟知した上で計画的に行われた可能性も出て来る。そして、そして……もし、そうなのだとすれば……それはとても卑劣極まりなく、許し難いことだ!


 最悪、人命を損なう恐れのある施設に対してのテロ行為なのだから!


「まぁ幸い、ことに対して故障時事故防止フェイル・セーフ機能が働き、亜空間移動不能回避支援設計フォールトトレラント・システムが颯爽と何とか大事故になるのだけは巧いこと防いでくれた。それだけが救いかな?

とは言え……この映像画像から想像出来る通り、【HOP】ゲートの外郭フレーム部品が、御覧の様にかなりヤバそうな雰囲気なんでな。参ってる」

「確かに、第7ブロック……少なくともD区画だけの損壊では、済みそうにないですねぇ。これは……」


 その映像を見て、わたしはなんだか思わず泣きそうになる。

 あの綺麗で素敵な外観の【HOP】ゲートに、あの様な傷をつけるなんて……。


 そんなわたしの思いは別として、【HOP】ゲートはそのゲート全体が保安部品といえる程に精巧で、かなりの精度を求められ造られている。

 フレーム部品同士は、そう簡単に歪まないような接合構造となっているが。今回の衝突事故で、万が一【HOP】ゲート全体に歪みが生じていた場合には、最悪このゲートは今後 《使用不可》というコトになるだろう。


「まぁ~なんにしても、こうした事故が一度でも起きれば。それに対する対策は、当然にとらなければなら無くなる……ってコトで、わかるな?」

「へっ?」


「……どうも、まだピンと来てないようだが。これから暫らくはそれら一つ一つをやるにしても大変なコト山積み、ってコトさ。

しかも、このバっカ《ゲート》の野郎ぉ~い! 備えている《検知器》全てがすでに、疑わしい限りだぞぉ~っ!

ああーっ、ホラ! こいつを見てみなよ。もぅからメチャクチャな数値を叩き出してやがる!! まあ、そういうコトだから、ハルカ。こりゃ当分忙しくなるのは間違いない。そこは覚悟しておいてくれ! いいな?」

「は……はぃ…!」


 神垣先輩は、VRモニター上に表示した監視画面で《【HOP】ゲート1番基》の状態をモニター確認していたのだが、上がってくるデータチャートがかなり大きく全体的に変動していたのだ。


 正常な範囲(ゾーン)をかなり超えている上、赤い範囲へ何度も入っては戻りを繰り返している。

 しかも乱高下が激しく、片方は下限へ、もう片方は上限へと明らかにその動きは不安定なものだった。

 わたしもそれを後ろから覗き込んでいて、その状況の悪さを嫌というほどに肌で感じてしまう。


「ああ~~もぅなんだよ、コレッ! 面倒クセぇ~なぁああ~~~!! どうしろってんだぁあー!」

「……は、ハハ」

 神垣先輩はそう愚痴り、叫びながらも確認作業を急ぎ。現場のフェミクさんとハインさんへ、ここから確認出来る現状報告と連絡を互いに取り合い、各点検箇所の確認とゲート全体の不具合状況を一つのファイルデータの中へまとめていた。

 と、そんな中。またしてもVRモニター上に通信着信が入ってくる。

 神垣先輩は【通信インカム】のボタンを『ヤケクソ!』とばかりに叩き付ける様に押し、報告を受けていた。


「はぁああ~~!? なにやってんだよお前ら、全く! 

わあーった! だから、分かった! 直ぐにそっちへ行くよ!」


 それで通信を切り、ため息をつきながら神垣ミヤ先輩は、勢いよく席から立ち上がる。

「まぁ…仕方ないかぁ~……」


 それから【エフISアイエス】課長席の中から[鍵]を取り(いいのか??)、後方にある厳重な保管庫からパスコード要求画面を入力アンロックし、中から『黒い大きなカバン』を取り出していた。

 そして、わたしに気づかれない様に《小銃》も神垣先輩は懐に隠し入れた。


「悪いけど、ハルカ。これは一応『規則』だから、これから私が向かうトコまで、一緒に着いて来てくれ。これを運ぶのに、二人以上の同行が付けられているんだ」


 着いて来い?

 しかも二人以上って……。


「それは別にいいですけど。どこへ行くんです?」

「いいから黙って着いて来な。心配しなくてもハルカ、楽しい《仕事》だよ」


「──ちょっ!? 大好きな仕事……って」 

 自分は余程、変な人間なんだと思われているみたい。別にいいけどさぁ~っ……。


 わたしはそう思い、ため息をつきながら黙って後を着いて行く。



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