第2話 《HOP》の生!(2)

 《フロント》とは、銀河に散らばる全64の亜空間ゲート《【HOPホップ】施設群》をこの室内で男女問わず運航管理しているオペレーター達が詰めている部署のことで。配置的には、このHOP中央管理管制室内の最前面にある大型VRモニターから十二メートル後ろから8列がそれになる。1列あたり5メートルの幅で広々としている。

 要するに、わたし達の前方で今も忙しそうに走り周り手際よく対応している人たちが、つまりは『それ』で……。先ほどわたしの方を見て苦笑っていたのは、その中の一人だ。

 そしてわたし達『F-IS課』は、中央管理監視部区域バックスペース エリア左側奥にあり、ここからフロント全体を見下ろし異常がないか監視保守している。

 今、わたしの目の前にあるVRモニター範囲上の故障警告アラート対応用の赤い枠の画面下部隅には、《責任者認可》という文字がグリーン表示され点滅していた。これは上長許可確認済みを意味している。

 更に、同じ列に横並びで《モニター中》という文字が赤く表示され、こちらは点灯している。これは映像と音声記録を録画中であることを意味する。

 わたしはそれらを確認し、心の中で再びため息をつきつつもそのフロント38番、《【HOPホップ】ランティスカ》の担当メイン・オペレーターへ気持ちを新たに切り替え、真剣な表情を向け口を開いた。


「わかりました! 取り敢えず、詳しい現在の状況報告を願います」

『あ……ああ、はい! 《【HOP】ゲート》使用後に、エラーが都度発生しています。エラーレベルが重警報ではなく、ただの警告だったので、暫く無視していたのですが……どうも様子がおかしいので。

運航システム自体は問題なく稼働しています』


 ゲート使用後に、エラー……?


「その《エラーコード》を至急教えてもらえますか? あと念のため、実際のモニター画面をこちらへ転送願います」

「うっせぇ~なぁ? なんだよ、さっきから。どうかしたのかぁ?」


 隣の席でいつもの様にして寝ていた上司の神垣かんがきミヤ先輩が起き上がり、VRモニターを後ろから面倒臭そうな表情をして覗いて来たのだ。

 現在、《モニター中》ということもあるので、わたしは空かさずVRモニター左側に配置してある【通信用インカム】の画面を素早く押し、スイッチを一旦切った。

 つまり、音声の録音を切った訳。それから神垣先輩を呆れ顔の横目で見つめ言った。


「フロント38番 《ランティスカ》の《【HOP】ゲート》の3番基に、エラーが発生しているらしくて……」

「亜空間ゲートでエラー? そりゃあ~流石に拙いだろう。放って置くと一番ヤバそうな奴じゃねぇ~か」

 そう言いながらも、「ふぁあ~ああ~」と欠伸をやっている。普段から緊張の欠片もないクセして、よく言うよ。ホントに、もぅ~。


「それで、現状は?」

「今、エラーコードを確認している所です」

 今は隣のどうにもこうにもやる気の感じられない上司より、目の前の仕事の方がなによりも大事だから、気にしないでおこう……。


 わたしは【通信インカム】画面を再びONし、その向こうからの声とVRモニターにのみ集中し唸るように「むぅー!」凝視する。

 これ以上の下手は出来ないから、その表情もこれ以上にないほど真剣そのものだ。VRモニターの向こう側で、そんなわたしと応対していたオペレーターの人はそれで驚き、真面目な表情に直し対応してくる。


『え、えーと……エラーコードはEJ802265……です』

「あ、はいっ! EJ802265……ですね? 今から調べます!」

 わたしの目の前にあるVRモニター範囲上に、フロント38番で実際に発生しているエラー画面が転送され同時に追加表示される。

 それを見て、即座に《エラー発生時、対応フロー》ファイルを開き、その対処を始めようとした。が、


「E? そりゃあ~電源関係だなぁ……ちょいと待っていなよぉ~」

 神垣ミヤ先輩はそう言うと、「まあまあ~ここは、この私に任せなさあぁ~い♪」と鼻歌混じりに自分の席へと戻り、専用VRモニターを開き調べ始めた。

 流石に経験値がわたしなんかよりも上なだけあって、その辺りの判断は本当に素早い。それについては素直に関心するし、認めざるを得ない。


 それにしても、Eが電源関係……?


 そういえば確か前に、『IR=IN』でそのエラーコードも記憶していたような??

 わたしその事をふと思い出し、『IR=OUT』でその記憶をピンポイントで取り出してみた。


「あーあった、あった! Eはやっぱ、電源関係で。Jだから、エネルギープラント10番基のトラブルだなぁあ~!

んで、80 22 6の5だからぁ~……」

、ですよね?」


「…………」

 わたしは、エネルギープラント10番基の《自動・障害検知管制システム》画面を開き。問題箇所と思われる部分を既に見つけ出し、上司の神垣ミヤ先輩に対し、その場所を今まさに指で差し示し言った。


「ここの10番基、外郭部C鋼板内にある《検出器》からのデータチャートが、少々不安定だった模様です。恐らく、エラー発生の原因はコレではないでしょうか?

丁度、エラー箇所とも該当していますし」

「あ、ぁあ……」 


「これだけ限界範囲リミット下限に近い平均値だと、エラーが出たり出なかったりするのも頷ける話です。特に、ゲート使用直後だと、出力がどうしても一瞬だけ落ちますからエラーが出るのは当然ですよね?

念のため、これまで本当に問題がなかったのかを検証確認する意味で、エラーコード履歴に対する《亜空間移動不能回避支援フォールトトレラントシステム》の反応が実際どうだったのかを一通りシュミレート表示してみましょうか? 神垣先輩」

「ン……そ、そうだな…。念のため、そうしてみてくれ…」


 それを受け、わたしは空かさずフォールトトレラント・システムの管理画面からパスコードを入力し、該当データをシュミレート処理させる。

 因みに、このモードは誰でも入れる訳ではない。ごく一部の権限者のみが行える機能だ。

 次の瞬間、VRモニター範囲上に、思わず「うっ?!」と頭が痛くなるような数値とグラフばかりが多数パッパ・パッパと表示され始めた。

 こんなのを即座に理解しろ、って方に普通の人間ならば寧ろ無理を感じるほど複雑なシロモノだった。


「えーっと……取り敢えず、ハルカ…。コイツは、うちの《解析部》に任せ……て?」

 神垣ミヤ先輩はため息混じりに頭を掻き掻き、そう言い掛けた。

 が、間も置かずわたしは安心感からホッと吐息を漏らし言う。


「よかった……。重度な許容限界範囲リミットオーバー発生時には、他のエネルギープラントよりエネルギー供給が自動提供され、それに合わせ、一時停止もし。ちゃんと故障時事故防止フェイル・セーフ機能が働いてくれていた模様です。

これまでの分については、特に問題もなくて幸いでした。

どうも先週行われた点検メンテ時以降からの乱れのようですから、『メンテナンス作業時に於ける不具合』なのかもしれませんねぇ?」

「……………………」


 わたしは次に、点検スケジュール類などを素早く総合的に見直し、おびたたしい数のデータチャート全てを同時に並べ確認しながら上司の神垣ミヤ先輩を横目に見つめ、その様に伺っていた。


「あのぅ~っ、故障分類フェイルモード・カテゴリとしては、そう言うトコでよろしいでしょうかぁ?

どうかしましたか? 神垣せんぱ──!?」



  ───ゴンンッツツ☆!!



 ……なぜか解らないけれど、次の瞬間、またド突かれてしまった。


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