第2話 【HOP】の生!
第2話 《HOP》の生!(1)
《【
このVRモニターは実に便利なモノで、放出機を中心に2メートルの範囲内でなら、開いたアイテムを自分の好きな空間位置へサアーッと移動させ並べることができる。
因みに、摘むコトだって可能。
しかも空間なので、位置関係は三次元的に移動可能で。手前や奥に配置することも、重ね置きも出来ちゃう。
更にいえば、トランプカードの様にシャッフルすることだって出来てしまう優れもの。
わたしは今、アイテムを沢山開き、淹れたばかりのコーヒーを飲みつつ上司の神垣ミヤ先輩側で『な・ま・け・も・の』と並べ。
それでいて、こんな暇なコトをやっている自分自身に対しても、間もなく呆れ果て「はぁ…」とやれやれ顔にため息をついてしまう。
別に、与えられていた日々の業務はキチンと終わらせた上でのことなのだから、構わないともいえるのだけど。今、自分が座る席から前方に居る《フロント》の人たちは、こちら側とは対照的ともいえるほど実に忙しそうに業務をこなしていた。
そうした人達を目の前にして、『寝る』というのは流石に如何なものなのだろう……?
そんな風にわたしは、上司である神垣ミヤ先輩とその《フロント》に居られる方々の様子を見比べ、つくづくとばかりに思ってしまうのだ。
ついつい自然とその場で頬杖までついてしまい。そんな上司を呆れ顔にただ見ているだけという自分に対してもまた、『どうなのだろう……』と思い、深い反省の思いに苛まれため息がどうにも絶えそうにない。
実はこの件で一度だけ、数日前にそれとなく意見してみたことがある。
「ばぁ~か、休める時に休んで置かないと、いざって時に、頑張れねぇ~だろうがぁあ~」の一言と共に、またしてもド突かれてしまった。
言われてみれば確かに、『それも一理あるなぁ~』とは思ってみたけれど。
「つくづく……それがまた、どうにも言い訳クサイから納得できないんだよねぇ~……」
こうして平然と目の前で寝ている上司を見ていると、やはりそう思えてならない。
わたしは頬杖をついたまま、そんな神垣ミヤ先輩を半眼の横目で遠目に見つめ直し、そこで本日何度目になるかも分からないほどの吐息を「はぁああぁ~~……」と、ガッカリ感全開でつく。
ここの部署へ配属されて、いよいよ今日から3週目に突入していた。
そうした人への顔合わせ、というか挨拶も、そろそろ流石にやって置いた方が良いような気がしてならない。
ところがその人たちは、いつも《テラ・フロート》の外……つまりは、【HOP】の
「そんな簡単には会えないし。向こうも忙しくて、そういうのを面倒クサがっているから、別にいいんだよ」とのことだった。
「忙しぃ……ですか? だったら、仕方がないですね? わかりました。なら機会があったら、ってコトで」
それならまぁあ~……仕方ないけどさぁ~。だけど実はそれすらも、『面倒クサイ』を理由にやってないだけなんじゃないのだろうか?と、ついつい懐疑的に思えてしまう。
そんな自分がどうも好きにはなれないけれど。こんな上司相手だと、それも仕方がない気がしてならない。
そんな訳で、
《ヴィイーン! ヴィイーン!》
「──ブ、ぶふうっーッ!? は、はいっ! 『
わたしは、そのまるで《重警報音》の様な紛らわしい着信音に慌てびっくりして、思わず半立ちし。しかも途中まで飲み掛けていた珈琲を『ぶふぅーッ!』と、前方へ容赦なく吹き出しぶちまけていた。
それだけで済めば、まだ良かったのだけれど……。そこをたまたま通り掛っていたらしい総務のヘイコックさんへ、淹れたての香り豊かな芳醇なる珈琲シャワーが見事なほど頭の上から全身に至るまで掛かってしまっていた。
シャワーだと表現して言ってはみたものの、それを頂いたヘイコックさんはまるでサッパリした御様子ではない。
そりゃあ、まぁそうだろう……砂糖もミルクも入れていたしね?
「あ、ハハ……♪ どうもヘイコックさん、ずびばせんでしたぁあ──!!」
私はどうしたものかと悩み顔で軽く苦笑ったあと、素早く立ち上がり『ジャンピング土下座』をやって見せたのだ!
それはもぅ見事なまでの、隙も無いほどの”平謝”である。そこからは最早、プライドの欠片すら感じられはしない。
しかも『すみません』を『ずびば』と訛らせ、反省色を色濃く演出するという裏技的(?)とも言えるオプション付きなのだから。これには相手のヘイコックさんも堪ったモノではないほどの威力。
これらすべては、上司であり
認めたくはないけれど。というか、反射的にそんなコトを当たり前の様にやってしまっている自分がどうにもこうにも情けな過ぎて……。
わたしは、つくづくとばかりに『平謝り』したまま、ため息をつく。
「あ、いやいや。いいよ……ハハ。そう気にしないで。それよりもさ。今は、《緊急事態対応》の真っ最中なんじゃないの??」
「あ……そうでした!」
VRモニター画面上に
しかもよく見ると、画面下部に『LIVE中』って……。
見ると、前方の《フロント》側の一人が振り返って居て、苦笑いながらこちらの様子を伺っている。
どうやら『LIVE中』だったということもあり……今までのこちらで会話とかなんとかを色々と見られ・聞かれてしまっていたらしい……つくづくため息だよぉ~~。もぅ泣きたいっ!
とは思うけど、兎にも角にも今は仕事中だ!
そこでわたしは改めて気を引き締め、自分の席へとサッと戻り。真剣な表情へと素早く切り替えてから、VRモニター範囲上の左側に表示されている【通信用インカム】画面を押し《OFF》から《ON》に切り替えた!
と、ほぼ同時に。一人の女性がわたしの目の前にあるVRモニター範囲上に追加表示される。
先ほど苦笑い、こちらを伺っていた《フロント38番》担当のメイン・オペレーターだ。
その表情は……実に、今にも吹き出し笑いそうなほど、堪えつつも苦笑っている。というか既に、普通に笑っている様にも思え……は、ハハ。
『ぷふう──っ! こちらは、フロントの38番ですが。くふっ!♪
【HOP】ゲートの3番基にて、只今 《エラーが発生》しました。至急、確認の方をよろしくお願いします。クっ、うくく……! ひ、ひぃゃあぁあ~~もぅ無理ぃ、笑いが……くはッ!』
「…………」
聞く限り…その内容は、とても笑ってられるような状況には思えないのだけど。自分が招いたコトなだけに、文句を言えた義理ではない、のか?
あとで思いっきり、ひとり反省会でもすることにしよう……と、わたしは内心でため息をつきつつ決める。
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