夢は叶った!?(4)

 そんなわたしの思いなどお構いなしという感じで、神垣ミヤ先輩は椅子から立ち上がると、机の上に置いていた資料マニュアルらしいもので、わたしの頭を軽くコツン☆とやり、手渡してくる。


「ちょっとしたことで、いちいちボーッとしてんなよ! 危なっかしい奴だなぁ~、お前は。

ホラ! これが、ここの対応マニュアルだ。

他にも、なんかあった際の《トラブル・フロー図》諸々まで一応まとめてあるから。最低でも、これだけは今日中に覚えておけよ。IR値300のお前なら楽勝だろう~?

あと、そこに置いてあるメモリー内に色んな資料関係が入ってあるから、時間がある時でいいから、目を通すだけでもしておいてくれ。もしそこで分からないことがあれば、遠慮なく聞く。いいな?

それと、このVRモニターと端末はお前専用だからな。自由に使って貰って構わない。

取り敢えずここで勤務中、目一杯、勉強していな。コイツのアクセスパスワードは、その資料の隅に小さく書いてあるから、確認だけしたらちゃんと消しとけよ。わかったか?

情報セキュリティー上、ルール違反になるんだ。そのままにしておくと拙いからな。

うっかりとそのパスワードを上司にでも見つかったら、大目玉喰うぞ! いいな?」

「あ、は、はぃ……わかりました。あのぅ~、それで神垣先輩は今からどちらへ?」


「そんなコト決まってんだろう? 休憩だよ」

「──はぁあッ!? きゅ、休憩って……」


 ついさっきまで、ずうーっとそこで寝ていたじゃないかぁあー! と思わずツッコミたくもなったけど。そこはどうにか心を落ち着かせ、そう思い言いたくもなる自分の心をなんとか抑え込んだ。


 学生時代とは違うのだ。ちゃんと考えて、ものを言わないと、ダメだ!


 とは、思うのだけれど……。

 この神垣ミヤ先輩って、見た目は黒髪を軽く適度に茶色に染めた女性の人で、これは配慮からなのか? 名前からいって、わたしと同じ日系人のようだった。


 でも、人としてのあり方……っていうのか。人生観……って言えばいいのかなぁ? どれに当てはまるのかは、よく分からないけれど。そういうところが大きく違う人種のような気がするよ……。


 まあとにかく、言われたことだけは最低でもやって置くことにしますか!


 わたしは自分の席へ静かに座り、その座り心地を確かめると『ニヒ♪』と笑み、早速とばかりにVRモニターに触れ。間もなく開かれるパスワード要求画面を確認すると、資料をパラパラとめくり、書かれてあったパスワードを入力し同時に覚えると、そのパスワードは直ぐに消した。


「うっわあー……!」


 間もなくVRモニター上に、沢山の監視画面が並び始めたのだ。



 これよ! これなのよ、わたしがここへ求めて来たものはっ!!



 わたしは目を輝かせ、その一つひとつがどういう意図のものなのかを確認し。マニュアル書と照らし合わせ、ちょっと唸っていたが『あ、そういえば!』と、神垣ミヤ先輩が置いていってくれたメモリーを思い出した。


 そのメモリーをVRモニター端末に差し、画面上の《IRリンク》を指先で軽くタッチ選択。それから、自分の首元にある首輪ではないけれど、飾り気の少ないIRリンクのスイッチを押し、眼前に投影され現れたVR入力用パスコードへパスコードと声紋認証確認を行い、オンライン・モードで《目視確認・許可》に指タッチし、変更。


 すると、VRモニター端末とのリンク画面が開き、メモリー内のデータをセキュリティーチェックして、内容に問題がないことを自動確認。それから、全てのデータを眼前に映し出されたVR画面上で確認し、カバンの中から、データ取り込み用インカムを装着し。右目が、その装置越しにその画面内容を捉える。



「……このページ、全部、『IR=IN!』」



 途端、右目に覆い被さっている視覚画面にデータがサーッと流れてゆく。わたしの脳内に埋め込まれているIRチップ内に、先ほどのデータが書き込まれ始めたのだ。


「えーっと……格納、完了。フォルダ名は、と……《【HOPホップ】管制室、重要管理ファイル①》これで、よし! と」


 眼前のVR画面とIR入力用VRキーボードを、傍目には何もない空間を触っているだけの様子で入力をし続け。次から次へと必要だと思ったデータを、わたしは同じようにして《IR=IN》してゆく。


 そんなわたしの様子を、総務のヘイコック・アルバデートさんはポカ~ンと食べていたお菓子をこぼしながら遠目に眺めていたのである。


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