夢は叶った!?(1)

「はじめましてっ! この度、新しく《【HOPホップ】中央管理管制室》配属となりました、未来ハルカです!

どうぞ、よろしくお願い致しますっ!!」


 今年16歳になる少女が、【HOP】中央管理管制室へと入って来るなり、元気よく、誰に言われるでもなく敬礼し挨拶をしたのだ。

 その表情は緊張感全開で、シャキッと斜め四十五度、それ以上に深々と頭を下げ、誰が見ても分かりやすいほどその生来の生真面目さを表している。


 管制室内は、薄暗いブルーLEDライトで照らされ、監視&制御用のVRモニターの灯りが無数に並ぶ。

 その室内入り口から一番近くに座る、四十歳半ばくらいの小太りで人の良さそうな中年の男性が、そんなハルカを見るなり微笑ましく見つめ、口を開いてきた。


「ああ……はじめまして。これからどうぞ、よろしくね。

えーっと、未来ハルカさんでいいんだよね?」

「えっ? あ、はいっ! そうです!」


 つい先ほど名乗ったばかりなのに、改めてそう確認されたので、ハルカは戸惑い顔を見せながらも、「あ、ハハ……その、未来ハルカです。どうぞ、よろしくお願いしますっ!」と相手に合せ、同じく作り笑いを浮かべ、にこやかに答え素早く頭を下げた。


 これからお世話になる方かも知れない人なのだ。愛想よくしておくのが賢明だよね? と、そう思ったからだ。


「ハハ♪ あ、そうそう。君の教育担当チューターは、ホレ。あそこのだから」

「あそこ……の、『あの方』ですかぁ~?」


 言われ、指差す方をそっと見る……と。監視&制御用VRモニターの明かりだけで照らし出される広い管理室中央奥の左側から1段上がった管理後方区域バックスペースエリアで椅子に座り、足を堂々と机の上に乗せ『居眠り』なんかをやっている二十歳過ぎくらいの女性の人が居た。


『この〝神聖な管理室〟内で、なんて不真面目な人なんだろう!』と、ハルかは思わず眉間に皺が寄ってしまう。


「名前は、神垣かみがきミヤ。君より八歳も年長で、経験も上の人だから。まあ~見ての通りあんな感じなんだけどさ……そこは言わなくても、どう対応するかは分かっているよね?」

「へっ?」


 年上で、経験も上……ってことはつまり。うやまえ、ってことなのだろうか?

 あんな、人、だとしても……はぁ。


 でも、その様子を遠目ながら三度みたび見る度に、思わず眉間に皺だよ。だけど、



「あ、ハイっ。分かってます! 神垣ミヤ《F―IS監視技師》……ですよね?」 


 そう、そうなのだ! きっと学生時代の常識とは、何かが違うんだ!

 それにホラ! もしかしたら、昨晩は徹夜とかで疲れてのことなのかもしれない。社会に出たら色々と大変なことがあるものだ、って父さんからも話しで聞いていたし。

 それに、うん、そうそう! 事情もよく知りもしないで相手のことを悪く決め付けるのは、きっとよくないことだから。


 うんうん!


 そんな考えが直ぐにわたしの脳裏をよぎった。でも、やはりどうしても気持ち的に納得がいかない……。なので、一応聞いて置くことにしよう~。


「あ、あのぅ~……」

「はい?」


「昨晩は、『徹夜』をされていた、とかなのでしょうかぁー?」

 先輩である神垣ミヤを、それとなく申し訳ない気分でこそっと指差し、確認するつもりで控えめに聞いてみたのだ。


「徹夜ぁ? ハハ、まさか! 本人に確認した訳じゃないんだけど。それはないと思うよ? 昨日は特に何のトラブルもなかったし。必要もないのに、わざわざ自分から進んでそんなことをするようなキャラじゃないよ、彼女は」

「はぁ……そうなのですかぁ?」

 どうやら徹夜とかではないらしい……じゃあどうして、あんな風に堂々と誰に咎められることもなく寝ていられるのだろう??

 なんというか……不思議に思えちゃうよ。


 わたしはそう思い悩んだあと、でも今は考えたって仕方のないことかぁ~、と諦める。そして改めて目の前の人を見つめ直し、今更ながらの思いで作り笑いし問いかけるように口を開いた。


「それから、あのぅ~……」

「ん? あぁ、私は総務のヘイコック・アルバデート。雑務的なことは全て、この私が大抵やるからね。何かあったら、気楽に声を掛けちゃってよ」


「ヘイコックさん……ですね?」

「うん、うん♪」


 なんとも頼り気のない感じのする人だったけれど。それでも、先輩は先輩だ。


「あ、ハイ! 分かりました、ありがとうございます。今後お世話になります!!」

「はい、はい♪」


 それからわたしは、自分の教育担当となる神垣ミヤ先輩の元へ向かい。その十メートル手間で気合を『よしっ!』と入れ、ソロリソロリと近づいた。


 ◇ ◇ ◇

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