(10)
「楓……俺は、俺は……」
仮初の体と頭の方がよっぽど現世の時より立派なものだった。
そのおかげで初めて知る事が出来た。自分がどれだけ罪深い事をしたのか。
「まあ、同情はするよ。君は決して恵まれた存在ではなかった。周りを恨む権利もあるし、少しぐらいそれに報いる力を振るっても良かったかもしれない。でもね、君はやりすぎた。歪まされたとはいえ、異常だよ。それに、救いの手を自ら捻り潰した」
「楓……」
――何が、守るだ。
言えた口ではない。
その彼女を殺したのが、自分自身なのだから。
「彼女が成長しれていれば、あんな溌剌とした高校生になれたかもしれない。だが、君はその可能性を潰した。彼女だけではない。君が殺した命達にはどうあれ未来があった。それを自分の為だけに使った罪は、決して軽くない」
地獄。
それは、自分にとってふさわしい場所なのかもしれない。
「さて、続けようか」
「……え?」
「いやいや、まさか。これで全部終わりだとでも?」
山羊紳士がにやりと笑った。
「全てを知り、君は今深い後悔と絶望にあるだろう。楽しかった仮想の時間から一転、全ての元凶は自分にあったというどうしようもない事実。だがこれで、全ての命への償いになると思うか?」
――終わらないのか。まだ続くのか?
「初めからやり直しだ。日常を楽しみ、そして壊され、自分の罪を無限に償い続けろ。地獄とはそういう場所だ。懺悔を繰り返す場所だ。一度や二度の絶望程度で許される世界ではない」
「そんな……また、最初からこれを……」
「だがもう一回目のようなチャンスはないぞ。君が途中でここが地獄だと気付く事はない。のうのうと生き、恐怖と絶望に浸蝕されろ」
――そんな、そんな……。
「それでは、ごゆっくり」
*
「おはよう、悟」
クラスメートの明るい声が、耳に響いた。
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