(2)

「無事だったのか、操!」

「俺は死なんて言うたやろ」


 明るくそう言ってのける操の声は危機的状況にあるものではなく、教室や部活でおふざけを交えながら話す時のように、呆れるほどにいつも通りだった。


「で、どこおるんや?」

「四階だ」

「ほうか。ならとりあえず、屋上来いや。助かるぞ、俺達」

「助かる? 屋上、行けたのか?」

「ああ。閉まってたらどうしようか思うたけど、良かったわ。おかげで電波もとれた。助けも呼んである」


 どうやら操も悟と同じ考えに至り、屋上を目指したようだ。

 助かる。

 悟はほっと一息つこうとしたが、大事な事を思い出した。

 その事を思い出し、悟の心に一気に暗雲が立ち込めた。

 楓。


「操、楓が……やられたかもしれない……」

「は? 楓ちゃんが?」

「ああ……あいつが、ノームが急に現れて。俺も襲われて意識を失っちまったんだけど、その隙に、楓が……」

「何言うてるんや悟」

「え?」

「楓ちゃんなら俺の横おるで」

「無事なのか!? 楓は!」

「おう。大丈夫やで」


 自然と涙が溢れた。

 良かった。本当に良かった。

 何も終わってなかった。


「そうか、分かった! すぐそっち行く!」

 悟は勢いよく駆け出した。重かったはずの足は軽やかさを取り戻していた。

 早く二人に会いたい。

 屋上への道を駆け上がる。

 もうすぐ、もうすぐ。

 扉が見えた。ただの扉が今は希望の塊だ。


 ――これでもう、悪夢も終わりだ。


 こんな馬鹿げた世界もこれで終わりだ。

 三人で助かる。

 扉の前に立つ。ドアノブを握った。ぐっと前に押し出す。

 扉が動いた。

 開く。開くぞ。


 悟は、希望の先へと足を踏み入れた。

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