(6)

「ここもあかんか」

「ああ、これで一階は全部アウトだな」

「せやな……じゃあ上攻めていくしかないか」


 新たに灯した希望に支えられながら活路を探り始めた三人だったが、一階からの脱出口は残念ながら見出す事は出来なかった。窓も扉も、完全に三人を拒絶した。

 つぶせる所をつぶしていくしかない。一階が駄目なら二階。二階がだめなら三階。一階よりかは脱出路の幅は当然狭まっていくが、それでもそこに縋り付くしかない。

 三人は二階への道へと進もうとした。

 操を先頭に、彼が階段に足をかけたその時、ぴたりと全員の動きが止まった。


 ――マジかよ。


 思えば、探索の間遭遇しなかった事が奇跡的と言えた。

 今こうやって無事にいる事の方が間違っていたのではないかと。実は知らず知らずのうちにとてつもない強運に自分達は守られていたのだ。

 だが、それもここまでだ。

 階段の上。そこからぬっと現れた巨体。近くで見るとよりその巨体はそこにいるだけで圧倒的にこちらを威圧した。校長を殺し、生徒達の殺戮の山を築いた張本人。

 ノームが今、悟達の目の前にいた。

 歩みを止めず、ゆっくりとその足がこちらに向かってくる。階段にかけた足を操は後ろに下げた。


「さて、これはどないしよっかな……」


 三人は後ろに下がるほかなかった。

 追いつめられた。ここまでか。悟はいよいよ本気で覚悟し始めていた。

 あまりにも奴との距離は近すぎた。


「行けや」


 操が何か呟いた。


「え?」

「先出口探しといてくれ。後で追い掛けるわ」

「はぁ!? お前マジで行ってんのかよ! 死ぬぞ!」

「アホか。俺は死なんわ」


 駄目だ。勝てる相手じゃない。そんなの一目見れば分かる。

 無残に殺されて終わりだ。このまま全員全速力で逃げるべきだ。

 だが、それも可能かどうか、正直怪しいのものだ。


「いつまでぼさっとしとんねん! 行け言うたらさっさと行かんかい!」


 操の恫喝は悟達に向けてでもあり、目の前の脅威に対しての啖呵とも取れた。

 分かっている。このままじゃ全員やられる。

 一人でも多く助かる。それも大事だろう。だがその為の犠牲は、あまりにも大きい。


 ――くそ……くそ……!


 決断しなければならなかった。操の思いを大切にしなければならない。それに、操がここまで言い出したら、もうてこでも動かない。後は、自分がどうするかだけだ。

 時間はない。悟は決断した。


「操、待ってるからな!」

「はいよ」


 悟は楓の手を取り、そのまま後ろへ走り出した。

 振り向かなかった。決意が揺らぎそうで。

 友との再会を信じて、悟は別の階段から二階へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る