(3)
「いやあああああああぁ!」
悲鳴がいくつも響いた。折り重なった絶叫は容易に悲劇を想像させ、そしてそれがどれだけ残酷で凄惨であるかを物語っていた。
「――え?」
顔を上げた先に映ったもの。檀上の上に立つ校長。直立不動の校長の体がそこにあった。
だが、足りない。完全に足りていない。人としてあるべきものが。
校長の首から上の部分が、根こそぎなくなっていた。
首元からはおそらく勢いよく噴射し飛び散ったであろう血液がスーツを真っ赤に汚していた。
悟がそこまで把握する頃には、館内にいた生徒達は悲鳴をまき散らしながら逃げ出していた。一斉に出口に群がる様は、まるで一匹の蜂を殺す為に群がる蟻の軍勢のようだった。だが、その中で悟はまだその場を動けなかった。
――嘘だろ……。
嘘じゃないからだ。分かってしまっている。嘘じゃないと、真実だと、本当だと分かっているから嘘だと思いたがる。
頭部を失くした校長の後ろに、あいつがいた。
2mは優に超えているであろう巨体。ボロボロのホームレスのような黒地の衣服。
――あいつは……。
巨体の顔面はフードに隠れていて見えない。だが悟は確信していた。
ホシイ。
頭の中に、また声が響いた。
幾度となく悪夢に現れた男。
人を破壊し、脳を喰い散らからす異常猟奇殺人鬼。
フードに隠れて顔はよく見えない。でもその下にどんな恐ろしいものが潜んでいるか、悟はすでに知っている。
足元がふらついた。嘘だと信じようとすればするほど、目から入ってくる情報がそれを全力で否定してくる。
「は、はは」
馬鹿げてると思った。こんな事になるなんて想像できるわけない。
たかがパズル。出来損ないの都市伝説。
悪夢が始まり、噂が蔓延し、生徒が死に、校長が死んだ。
そして今、目の前にヤツがいる。
「そうかよ、そうなのかよ」
確証も、証拠もない。誰かが勝手にそこに尾ひれをつけて泳がせて、それを見ておもしろおかしくまた誰かがパーツを付け足す。気付いた頃には原形なんてなくて、そこには荒唐無稽なありもしない話が出来上がる。その大元を辿ろうとしたって、巻き付いたあまりにも強固で無数な鎖のせいで実体なんて見えない。
でも本当は実体なんてない。なんとかそれらを全部剥ぎ取ったとしても、そこには何もいない。無責任に取り付けられた残骸が周りに散らばるだけだ。
しかし、何にだって例外はある。嘘だらけの世界で紛れ込む本物もあるのだ。
今そこにいるヤツが、何よりの証拠だ。
あいつは、都市伝説でも何でもない。実在している。
悟は、自分がやってしまった事にようやく気付いた。
――俺は、本当に地獄を開いちまったのか。
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