(2)

「うげー気持ち悪い話ね。そういうスプラッターなのはちょっと勘弁」


 楓はおえーと分かりやすいリアクションで顔をしかめた。

 悟はと言えば、複雑な面持ちで操の話に聞き入っていた。

 何だこの話は。

 正直言えば、オカルトや都市伝説としては程度の低い話に思えた。確かに猟奇的な事件の内容は恐ろしいし、脳を食べるというノームと呼ばれる殺人鬼のキャラクター性もあるにはあるが、話として決してよく出来ているわけでもなく、魅力的なオチが特にあるわけでもない。

 語り継がれるオカルト話には恐怖の中にも確固としたエンターテイメント性がある。だがこの話にはそれがない。証拠が何も残っていないという不可解さはあるが、何と言うか、実際に起こった事件がそのまま騒がれている、そういった印象を強く感じる話だった。


「それってさ、本当にあった事件なのか?」


 悟は思ったままの言葉を口にしていた。


「どやろ。そこは俺にも分からんわ」

「そうか」

「でもさ」


 楓がそこで口を挟んだ。


「今の話って、偶然とは思えない程に聞き覚えあるよね」

「せや、それが一番言いたかったんや」

「……そうなんだよな」


 楓の言う通りだった。何しろそれが、操が”妙な話”と言った理由だろう。

 今聞いたノームの話は、悟が見た悪夢そのものなのだ。


“モット、ホシイ”


 あの声がまた、頭の中に響いた。

 この一致は果たして、偶然なのか。

 だが、その時既にそんな疑問を抱く余裕もない程に、既に現実も浸蝕され始めていたのだ。


ノームは、ただの都市伝説でもオカルトでもなかったのだ。

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