(4)

 さくさくとパズルを進めて行こうと思ったが、どうにも悟の手は進まなくなってしまっていた。


 ――こんな気味悪かったっけ?


 件で見せてもらった時にこんな嫌悪感は全くなかった。あの時に見たものと今目にしているものがまるで違っている事に悟は困惑した。


「気持ち悪りいな……」


 白いピースの上に載せられた新鮮なピンク。そのピンクには所々皺のようなものが刻み込まれている。今回は見た瞬間になぜかそれが何なのか、すぐに想像がついた。そのせいで悟は積極的にパズルを解き進める手が鈍った。 だがだからと言って放棄するわけにもいかない。無理でしたなんて手を挙げれば操と楓はがっかりするだろう。


「よし」


 気合いを入れ直し、悟はピースに手を伸ばした。









「出来た……」


 ピースがしかるべき所に収まり、箱いっぱいの真紅がこちらを向いていた。

 予想していた答えは見事に当たっていたが、達成感よりはもやもやとした心地悪さの方が今回は大きかった。


「なんで脳みそなんだよ……」


 目の前に浮かび上がった脳みその意味や意図が理解できない。この箱の作者はどんな思いで脳みそのパズルを組み込んだのだろう。よほどの変人だったのだろうか。ともかく趣味の悪さはなかなかのものだ。


 これで残り一面。

 地獄へとまた一歩近づいた。

 途端に、このまま本当にパズルを解いてしまっていいのだろうかという不安に駆られた。

 これを完成させてしまった事で、取り返しのつかない大変な事が本当に起きてしまったら。

 あり得ないと思っていた感覚が、少し現実味を帯び始めていた。現れた二面の脳みそがその感覚に近付いた大きな要因だった。

 怪異は何一つ起きてはいない。ただこの胸のざわつきは何だろうか。

 言い知れぬ不安を抱きながら、悟は箱から目を逸らした。






 ホシイ。

 ホシイ。

 モットホシイ。

 タリナイ。

 タリナイ。


 イレナキャ。

 アノコミタイニナレナイ。


 モット。

 モット。


 タベタイ。






 暗がりの部屋でのそりと悟は体をもたげた。

 時計を見ると夜中の2:30。まだまだ起きるには早い時間だ。


 ――またか。


 夢だ。

 漆黒の闇の中でただ声だけが木霊する夢。

 少し高く舌足らずな声は幼さが残るものだった。

 不思議に思ったのは、一面の完成後にも同様の夢を見ていたことだ。

 あの時も同じような夢を見た。その時はあまり気に留めなかったが、二度も同じ夢を、しかもパズルが完成したその夜に見ると言う事が続けば、さすがに少しおかしく感じた。


 これは何かの兆候なのだろうか。

 最後の一面を完成させた時、また自分は夢を見るのだろうか。


 本当に、これを完成させていいのだろうか。

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