(3)

「すまんな悟ちゃん。どうしても都合悪なってしもうて」

「ああ、まあいいよ」

「で、これ? 噂のやつって」

「みたいやで。タダで手に入れるとは、なかなかやるな、悟ちゃんも」

「ぜんっぜん見た目違うけど」

「せやな。それにパズルっぽくない。これホンマにパズルなんか?」

「ああ」


 悟は件の店主がしたようにまずは箱を上から開き、その後横から棚を引出し、箱の構造を二人に見せた。


「へー。三段オチかいな。おもろいな」

「オチがあるかどうかは知らないけどな」

「でもなんだろねこれ? 何が出来上がるんだろ?」

「さあな。やってみなきゃ分からない」

「そう言うこった。ほなさっさと地獄を開いたってくれや」

「はいよ」

「何か変化あったら教えてよね」

「分かってるよ」


 早速悟は家に持ち帰ったパズルを解き始めた。

 まずは上段。バラバラに散らばったピースが何の断片なのかを改めて考察してみると、少しだけその全容が分かった気がした。よく見てみると何やら角のようなものや、鋭くこちらを睨みつけるような目玉が見て取れた。

 どうやら何か獣か動物が出来上がるようだ

 悟は無心でパズルを滑らせた。ルービックキューブは得意だが、このスライディングブロックパズルはあまり得意ではなかった。正直動かし続ければいずれは正解に行き当たるだろうという、策も何もない解読方法でパズルを動かし続けた。

 しばらくそうして格闘を続ける事でようやく一つ目のパズルが完成した。このペースでいけば案外簡単に地獄を開いてしまうかもしれない。そんな事を思いながら目の前に出来上がった完成図を眺めた。


 ――ヤギ?


 出来上がったそれは正面を向いた山羊の顔だった。だがそれは高原で戯れているような白くて可愛らしいものではなく、ごわごわとした茶色い毛で覆われ、こちらを見すえる目元は殺意にも満ちたような鋭さを持って睨みつけていた。

 ともかく一つ目のパズルが完成した達成感に満たされ、悟はベッドにそのままごろりと寝ころんだ。

 パズルは残り二面。

 全てが完成した時、一体何が起こるのか。本当に地獄が始まるのだろうか。

 想像もつかない未来を思い描きながら、悟はそのまま眠りへと落ちた。








 ツライ。

 ツライ、ヨ。

 バケモノ、バケモノナンカジャナイ。


 ボクハ、ニンゲンダ。








「どんな感じよ悟ちゃん」

「とりあえず一面クリア」

「で、何か変わった事は?」

「んー特には」

「なんや、そうなんか」

「えーなんかさ、変な気配がするとかさ、そういうのも全く」

「そうだな――」


 言われて何かあったかと考え直してみるも、特別これといった変化は今の所何も起きていない。強いて言えば何か夢を見たような気もするが、そこまで気になるようなものではなかった。


「まあ、現実はこんなものなのかもね。そんな簡単にオカルトは起きないって事か」

「いやいや、決めつけるんはまだ早いで。パズルは三面。リンフォンかって三段階変形やろ。次あたり何か起きるかもしれへんで」

「期待しすぎないように期待しとこうぜ」

「はーい」

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