(5)

 悟達が行っている秘密裏非公式部活、恐怖蒐集クラブ。

 字面にするとずいぶん物騒な名前だが、心霊スポット巡りや怪談話に興じるという、要はオカルト愛好会だ。

 役割としては部長が悟、副部長が操、楓が部員兼マネージャー。だが当然そんなものは肩書きだけでしっかり機能しているわけではない。


「部活らしさみたいなん、ちょっと欲しないか?」


 そんな操の言葉で付けた何の重みもない形だけの役割だ。


 この部活の始まりのきっかけは中学にまで遡る。

 悟と操との出会いは神下高校だが、悟と楓に関しては中学からの付き合いだった。放課後暇だった所をたまたま呼び出されて遊んだバスケのメンバーの中に楓がいたのが、お互いの初めましてだった。

 男3女3の中で、楓が群を抜いてキレのある動きを見せた事は今でも印象深い。日頃慣れない激しい運動ですっかり息が上がった悟に、はいと楓はスポーツドリンクを手渡してくれた。


「バスケ、上手いね」

「うん、バスケ上手いの」


 ひょうひょうと答える楓をおかしな奴だと思いながら、面白い奴かも知れないとこの時悟は思った。

 これをきっかけに、度々楓達とバスケをしたり遊びに行ったりと関わる機会が増えた。そして恐怖蒐集クラブに繋がる出来事が訪れた。

 夏休み。ホラー、オカルトの季節に押され、悟達はある心霊スポットを訪れる計画を立てた。そのターゲットは違法な医療行為で多くの患者の命を奪った狂気の医者がいたという地元でも有名な廃病院だ。そんな曰くつきの場所でしかも怪談話をしてやろうというなんとも気合いの入った計画だった。だがしかしその気合いは門前で早くも崩壊した。


「ちょっとこれ、マジでヤバくない?」


 そう口にした誰かの言葉は皆の気持ちそのものだった。暗闇の中光もなくボロボロで佇んでいる病院は異様の一言で、夜の闇とは違うどす黒いオーラのようなものが建物全体を覆っていた。

 とはいえここまで来てお暇しようかとはならず、ちょっとだけ中に入ってすぐに出ようかという事で合意し建物内に踏み入った。

 一切の光を奪われた空間に、入った瞬間すぐさまそんな気合い等投げ捨てれば良かったと後悔に包まれた。そんな中一切の後悔を感じさせず、るんるんと鼻唄を歌う者がいた。誰かと思って目を向ければ楓だった。なんて肝のでかさか、もしくはただの馬鹿なのかと思ったが、そういう恐怖に屈しない人間が一人いてくれる事に、悟達は苛立ちよりかは安心感を覚えた。

 すぐ出るつもりだったものの、複数人と楓という心強い存在に推されてか悟達は病院内をぎこちなくだが散策していった。そして恐怖の中に冒険をしているようなわくわくが芽生え始めた時、空気をつんざく悲鳴が突如響き渡った。次の瞬間女子の一人が一目散に逃げて行くのを見て、皆一斉にその場から逃げだした。

 息は切れ切れ、機関銃のように連打する心臓の鼓動に見舞われながら、悟は一番に逃げ出した女子に目を向けた。顔を抑え恐怖に震える彼女はしきりに「誰かいた!」と声にしていた。そんな彼女を落ちつけようと楓がしばらく彼女の頭を優しく抱きしめていた。


 後日いつものように楓達とバスケをした帰り道、彼女は何を見たのかと楓に尋ねた所、何か細くて長い針のような物を持っている男がいたと口にしていたそうだ。そうなんだと言いながらそれは怖いなと思っていると、


「でも惜しかったなー」


 と残念そうに楓が言った。


「何が?」

「もっと色々見て回りたかったのに」

「マジで言ってんの? ああでも、楓だけだったもんな。あの場で浮かれてたの」

「皆がびびりすぎなのよ。あんな雰囲気最高だったのに」

「何、楓ってそういうの好きなの?」


 そう言うと楓は待ってましたとばかりにきらきらした笑顔を悟に向けた


「大っっ好き!」

「あ、そうなんだ」

「夏って最高だよね」

「へ?」

「心霊番組とかこわーいのいっぱいやってくれるからさ。海とかそんなのどうでもいいし」

「海は海でいいけどな。でも、その感じは分かる。テレビ欄見て、お、来た来たってなるよな」

「そう! ホント待ってましたって感じなのよね」

「そう言えばそろそろ、マジ怖やるんじゃない?」

「再来週の土曜よ」

「さすが、ばっちりだな」

「当たり前よ」

「じゃあさ、何かとっておきの怖い話とかないのか?」

「お、いいねさとぅーん。ストックの量と質には結構自信あるわよ」

「頼もしいな」

「じゃあじゃあ、ある女の子の話なんだけどね」


 それが全ての始まりだった。楓の話す怪談話はどれもが安定した恐怖を与えてくれた。楓とそんなやり取りをするうちに、それまでにわかレベルだった悟もオカルトにどっぷりとはまり込んだ。ネットや書籍やらで恐怖に繋がるものであれば何でも蒐集した。

 そんなオカルト熱を持った二人は示し合わすわけでもなく神下に進み、操を加え再びオカルトを通して時間を共有するようになった。そこにはある種運命めいたものを感じた。  

 何はともあれ、悟はこの部活の時間が好きだった。

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