第2話 〜異世界〜

私が通り魔に襲われて、早3か月。

私は、今までのように学校に通っている。

でも、変わった事はたくさんある。

ペンが持てないから、授業はノートは友達に作ってもらうしかない事。

美術部を辞めた事。

絵を失った事。

でも、こんな悪い事ばかりじゃない。

親友の咲希と一緒に過ごす時間が増えた事。

手が上手く動かせない代わりに、足の指がよく動くようになった事。

良い事も悪い事も、挙げたらキリがない。

今は、足で字を書けるようにリハビリ中だ。


帰り道、いつも咲希はファンタジックなオリジナルの話を聞かせてくれて、いつもはただただ楽しく聞くだけだったのに、今日のは違った。

今日の話はこんな感じだった。


この世界は、いくつかの異世界とどこかで繋がっていて、その異世界に行くには、扉が必要で、その扉を見つけるには運が必要。何でかっていうと、その世界によって、この世界と繋がる時期と場所があって、定期的に繋がる世界が多いけど、不定期に繋がる世界もある。

しかも、扉を見つけたとしても、鍵が必要で、鍵を開ける事もかなり難しい。

その中でも、1番行く事が困難な異世界というのが『shine』という世界。

shineは、特に運がいい人しか行けなくて、その世界は1億年以上の歴史がある中でも、1度も争い事が起きた事はないという。


私の住む世界もそうだったら良いのに。

そう思っただけじゃなかった。

その世界に行きたい、と思ったのだ。

家に帰ってからも、ずっとその世界の事を考えていた。

もしも、本当にそんな世界があったら、そこで私は何をしているのか。

どんな景色なのか。

どんな空の色なのか。

どんな音がするのか。

どんな匂いがするのか。

どんな空気なのか。

どんな人がいるのか。

夜にshineの夢を見てしまうほどだった。


そんなある日、咲希が委員会で帰りが遅くなるというので、私は1人で帰っていた。

もちろん、その時もshineの事ばかりを考えていた。

少しぼーっとしながら歩いていると、チャリン、と音がして足元を見ると、鍵が落ちていた。

アンティークみたいで可愛い鍵。

誰かの落し物かと思って鍵を拾い上げる。

その時、鍵が手の中からスルリと落ちる。

そうだった。忘れてた。

手が上手く使えないんだった。

鍵が地面に落ちた瞬間、目の前が眩い光に包まれていく。

私は眩しすぎて一瞬目を閉じた。


目を開けると、そこは美しい野原だった。少し小高い丘の上。

そこからは、小さな町が見えた。

見た事もないほど美しい景色。

私が見惚れていると、後ろから

「友莉さん、ようこそおいで下さいました。貴女は幸運です。」

と声がした。

驚いて振り向くと、美しい女の人が立っていた。

それに、何で私の名を知っているんだろう?

何で私が幸運なんだろう?

女の人は続けて言った。

「貴女は選ばれし人間です。貴女はこの世界に呼ばれてここに来たのですから。さあ、私の後について来て下さい。」

そして、私の手を優しく包むように握った。

でも、私は思わず手を振り払ってしまった。女の人は動じずに私に目線を合わせて言った。

「驚くのも仕方がありません。友莉さん、貴女は異世界の話を聞いた事がありますか?貴女が住んでいる世界はいくつかの異世界と繋がっているのです。貴女は、その異世界の1つにやって来たのです。」

私はその瞬間、咲希のあの話を思い出した。私は思わず困惑してその場に座り込んでしまった。

すると女の人が、もう1度私の手を優しく包んだ。

そして、しばらくの間、私の頭の整理が終わるまで女の人は私のそばにいてくれた。






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