── 夢




 教室は恐ろしいほど冷たかった。

 夏の、暑苦しいほどの蝉の音が、滑稽なほどよく聞こえた。

 

 私は誰もいない教室で、ただ一人立っていた。

 どうしてそこに立っているのか。どうして誰もいないのか。

 肝心なことは何も思い出せない。


 夢だと、不意に思った。


 薄っぺらい通学鞄が、嘲笑うように落ちていた。

 しゃがみこんで、それを拾おうとしたとき、

 頭が割れるほどの歓声がなぜか耳の中から聞こえた。


 五月蝿い

 五月蝿い

 五月蝿い


 『ねえ、なんで笑ってるの』











「はっはっはっ……」


 飛び起きた。

 何か夢を見ていた気がする。頭がいたい。喉が酷く乾いた。琴子は呻きながら額の汗を拭った。何かがおかしいような気がした。夏の終わりのようなぬるい匂い。喉が酷く乾いた。


 琴子はどこか薄暗い場所に横たわっていた。浅い呼吸音が周囲に響く。見慣れない場所。もっとよく見ようと思う前に身体が沈んだ。


 だるい。ただただだるい。

 琴子はまた瞼を閉じた。浅い呼吸音を繰り返しながら、もう一度夢の世界に戻っていく。

 嫌だ。戻りたくない。

 ふいにそう思った。


 意識とは正反対に、身体が眠りを求めている。濁った意識の中で嫌だ嫌だと首を振りながら、琴子は再度眠りに落ちた。

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