琴子-4


 二人の後をくっついて食堂を出た。聞きたいことはいろいろある。ただ、なんとなく、それは部屋についてからの方が良さそうだと思った。

 そのかわり、歩きながら周りを観察する。



 この建物は石造りと木造を掛け合わせた作りみたいだった。

 たぶん骨組のようなものは石でできているのだろう。建物について詳しい知識があるので分からない。ただ少し歪んだガラスがレトロでお洒落だと思った。でも普段琴子が見るようなガラスが存在しないということはそこまで技術は発達していないということかもしれない。


 前を行く二人の格好はバラバラだ。そもそも二人のことについて琴子は何も知らない。というか琴子自身についても二人は知らないだろう。

 昨日訊問されたときに聞かれたのはなぜここに来たのかについてだけだったから。それも聞かなければならないなと頭の隅にメモをしておく。


 食堂での会話で教授とか学院とか言っていたから二人は学生なのだろう。

 寮があって食堂があって、というのもここが学校だと言われればなんとなく想像がつく。ただ琴子が今まで通ってきたような中学、高校とはイメージが合わない。どちらかといえば大学みたいなものだろうか。

 まあ、そうはいっても大学なんて行ったことないから何とも言えないけど。


 通り過ぎる人の様子は様々だ。

 髪の色も目の色も、肌の色も多種多様。

 服こそ統一感があったけれどなんだかすごく国際的な場所に来ている気分になる。


 確かに目の前の二人も、ロウは黒髪黒目でシャンは金髪碧眼と様々だ。

 ロウはアジアっぽい。シャンはどちらかというと西洋寄りの顔をしている。

 ただ他の国の人同士が歩いているという感じはしない。混血が進んでるのかもしれないなとぼんやり思った。



(……保護したい、ねえ)



 正直喜んでいいのかどうかわからない。

 とりあえず、目の前の二人とはもう昨日ほど敵対することはないんだろう。

 それは喜んでいいかもしれない。

 それに協力者が出来た。

 これも喜んでいい。多分。


 でも、要するにそれはモルモットだ。

 根本的には昨日と態度は変わっていない。

 高圧的で一方的。

 ただそれがちょっと友好的になっただけで。


 でも今日朝起きてから、二人は琴子に礼を尽くしてくれた。昨日のことを謝って、自分たちよりもいい食事を用意してくれた。


(後でお礼、言わないと──)


 そうするのが、


「………………」


 でもなぜか、言おうと思っても言葉が出ない。


 前を行く二人は琴子が何を思っているかなんて気にしていないようだ。またくだらない話をしながら盛り上がっている。


 二人の後ろを歩いたって、琴子は一人だ。


(………そういえば、ロウの黒目って日本人とはちょっと違ったな)


 夜のうちはそれこそ真っ黒にしか見えなかったのだけどさっき見た彼の瞳は青みがかっているというか、濃紺が限界まで濃くなって黒く見えるような、そんな不思議な色をしていた。

 




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