問題児
風・二二
その日も、良く晴れていた。
東の大国である皇国では、今日は祭日である。
多くの人々が仕事を忘れ遊びにふける、そんな日だ。
特に都では繁華街の各地で市が立ち、多くの人で賑わっている。
そんなうららかな日にも関わらず、ロウとシャンは気だるげに学院内を歩いていた。
「ロウ……お前のせいだからな」
「俺?俺のせいか?お前の自業自得もあるだろ」
「はあ?」
皇国の都の北部には広大な敷地を誇る学院が位置している。この国で最も権威がある高等教育機関だ。二人はそんな学院の中でも名の知れた学生であり、なぜか今は入り組んだ学院の中を大量の文献を抱えて歩いていた。
ロウの言い分にシャンが不服そうに声を上げる。
「お前が先に巫女寮に忍び込もうって言い出したんだろ!」
学院の中で二人の名前が知れ渡っている理由。
「ああ、そうだが?でもばれたのはお前が失敗したからだ。違うか?」
「………くそっ」
「逆にいえば俺はお前のとばっちりを受けてるようなもんだ」
それは入学以来二人が引き起こしてきた騒動の数々に他ならない。
「それは違うだろ!」
「俺が行きたかったのは巫女寮の敷地にある書庫だけだ。お前が変な気を起こしたのがいけない」
「変な気なんて起こしてない!」
「兄弟として忠告しておこう、シャン。巫女には惚れるな。確かにあの子はお前好みだがやめておけ。いいようにつかわれて捨てられるのが落ちだ」
「……誰も惚れただなんて言ってない‼」
「ほー?へー、そうかそうか。それは悪かったな。俺はいささか言い過ぎたようだ」
「…おい、ロウ、お前笑ってるだろ」
「笑ってねえよ」
「笑ってるだろ!口角上がってるの見えてんだぞこら」
「うるせえな巫女寮まで聞こえるぞ」
「ロウ!」
「………」
違反物の持ち込みから、禁書の持ち出し。無許可の実験、授業を行う教授に対するボイコットなど、二人がこの学院に入学してから起こした騒動は大小合わせてキリがない。
学院の教授は問題行動を起こした学生に対してペナルティを課す。
それがここのルールだ。
その中でも迷路のように入り組んでいる研究棟から各場所に備品を返す作業は、ペナルティの中でも最もかったるく、故に最も学生に不人気で、最も教授たちに支持されている作業である。
ロウはこのペナルティを言いつけられた時の様子を思い出していた。
二人が忍び込んだのは男子禁制の、一部の男子学生から聖域と呼ばれる、巫女寮だ。ロウはそこにある書庫に行きたくて忍び込んだわけだが、いささか奇妙である。
男子禁制の巫女寮に忍び込んだのにも関わらず二人がこんな軽いペナルティで済んでいるのはおかしい。自分で言うのもなんだが、普通ならもっと重いペナルティを課せられ、かつ逃げ出さない様に教授の監視下の下で何かしらやらされるのだが。
「ロウ?」
「…………」
「また厄介なことを考えてるな」
「シャン、今日はやけに人が少ないな」
「ん?あ、今日は祭日だしな。来月から物忌みだから暫く市は立たないだろうし、たいていの奴は町に行ってるだろ」
「…………」
「どした?」
「いや、ここは研究棟なのにあんま教授たちと会わねえなと思って。」
「教授たちも街に行ってんだろ」
「なあ、何で今日は学院長じゃなくて事務官にペナルティを言われたんだろうな」
「………そうだなあ」
「あの人なら嬉々としてしちめんどくさいペナルティをやらせるはずなのに、なんで学院長じゃなくて事務官が出てきたんだ?しかもこんな、生ぬるいペナルティで」
ロウは目を細めて建物の外を見た。森の中にあると揶揄される学院の向うに、その森を覆うような大樹が見える。
「俺にはお前が何考えてるか全くわからねえよ」
「それはお前が馬鹿だからだな」
「お前の頭がおかしいからだよ、ばーか」
その大樹を支えるように、またその大樹に巻き付くように作られているのが上宮。
この国の中枢だ。
「……学院長はどこにいってるんだろうな?」
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