第26話 天地創造
「正直なところ。僕自身まだこの力を使いこなせていない。だからこれは命令であると同時に、心からのお願いでもある」
屋上から数メートル浮いた空中から、麗王が慈悲深い笑みを湛えそう言った。
「どうか僕がこの力を使う前に、降参してくれないか?」
麗王は遥か上空から征を見下す。その姿は天界から下界を見下ろす神のように、威厳があった。
「何を偉そうに……ここで退くわけにいかないだろ!」
「それは残念だ。では、審判の時を始めよう。王……いや、神に逆らう愚か者よ」
「末期の中二病患者かよ、イタイぜ命のお兄ちゃん」
麗王が神々しく微笑むと、右手を征に向ける。一瞬右手が光り輝くと、征の背後で爆音が鳴り響いた。
「おや、狙いを付けるのが難しいな、これは」
「派手な音たてやがって……何しやがった?」
静かに振り返ってみると、駅前がやけにすっきりとしている。征の記憶では建設中のビルがそこにあったはずだ。駅前の再開発で、ショッピングモールになる予定だった縦にも横にも大きいビル。それが跡形もなくきれいさっぱり消えうせていた。
「下手な鉄砲も数を撃てば当たる、かな」
麗王が再び光を放つ。今度は体育館が木っ端微塵になって吹き飛び、まるで爆弾を落とされたようにクレーターができていた。
「ふ、ははははは!! はははは」
頭上で狂ったように笑い続けながら麗王は光を放ち、街を破壊し続ける。
「やめろ!」
征が攻撃を加えようとした時だった。ものすごい速さで上空から飛来したそれが、笑い続けている麗王の腹を背後から右手で貫いた。
「あんたの笑い声はうるせーんだよ、『王』」
「龍ヶ峰、なのか?」
レベル3となった龍ヶ峰。彼女の右手が何度も何度も麗王を切り刻んでいく。
「くたばれ、クソ野郎!!」
体中に致命傷を追った麗王。彼の体は、素人目に見ても助からないように思えるだろう。死体と人間の境目……そう形容するにふさわしい状態である。
「ふ、はははは! あははは!!」
だが、それでも彼は笑い続けた。
「何だ、こいつ。こんな状態で笑いやがって、このド変態野郎が!!」
「無礼者め。トカゲごときが神に触れるとは」
麗王の体が瞬く間に修復されていく。破られた衣服すらも元の状態になって、先ほどまでの惨状が嘘のようであった。
「『命』と同じか……なら、いくら攻撃しても無意味ってことなのか?」
「それなら、死ぬまで切り刻んでやるだけだ! くらいやがれ、中二病ド変態野郎!!」
心臓をめがけて繰り出される龍の爪。
それをかわさずそのまま受け止めた麗王は、表情を崩さずに右手を龍ヶ峰に向けた。
「その状態になっても自我を保ち続けたことは、賞賛に値する。君ならば、完全に龍化……レヴィアタンになれるかもしれないね。だが、その時を与えるつもりはない。消えたまえ」
「な……んだと!」
麗王が放った光の筋とともに、龍ヶ峰は彼方に消し飛ばされる。
「龍ヶ峰!!」
「大丈夫。おそらく死んではいないだろう。さすがは龍の鱗だ。擬似的とはいえ、神の一撃に耐えるとは……トドメを刺したいところだけれど、今の優先事項は君だ。『天』」
麗王の右手が征に向けられる。
「消えろ、僕の目の前から」
麗王の右手からレーザーのように黄金色の光が放たれた。
「ふざけるなよ!! ここにいるのは、オレだけじゃないんだぞ!!」
このままかわすことは可能だ。だが、それではこの場にいる両親や友人たちが危ない。守るための力。それが必要だ。
とっさに征の体は動いていた。右手を空に向けて伸ばし、それを願う。
爆発に次いで爆音。アクション映画さながらの土煙が巻き起こり、征は必死に前を見る。
「バカな……」
目の前に山があった。それは何の比喩でもなく、土と石でできたおよそ100メートルにも及ぶ巨大な山。それが盾となり、征たちを、敵であった土屋たちすらも守ったのだ。
「やればできるんだ、何だって。さあ、そろそろ終わりにしようぜ。ラスボス」
征は空中で呆けている麗王を見上げる。
「ありえない。神の力が! 何故だ! 『天』は天変地異を司る言玉のはず。ここまでの力があるということは……まさか?」
『あらあら、この1000年の間にずいぶんと私も過小評価されるようになったものね。『天』の言玉が司る力は天変地異などではないわ。すべてを創造する限りの無い有。すなわち、天地創造』
「天地、創造……」
『神に近いこの力の前に、神様ごっこ同然のお遊戯でかなうはずが無いでしょう? わかりやすく例えるなら、核ミサイルを相手に拳銃で立ち向かうようなもの。さあ、教えてあげなさいボウヤ。天の。いえ、あなたの本当の力を』
「言われなくてもわかってる。もうこれ以上は何もさせない」
「く!? だから何だと言うんだ! 例え天地創造を司る力だろうとも、僕はあきらめるわけにはいかないんだ。もう一度あの日をやり直して、元に戻さなければならないんだ! その為なら僕はどんな犠牲を払ってもかまわない。誰が死んでも構わない! だから!!」
麗王の右手が再び輝く。正真正銘全力なのであろう。その一撃は今まで以上に強大であった。
「神様ごっこは終わりだ、言葉麗王!!」
征が麗王に右手を向ける。
「限りの無い有。何だってやれるんだ。だったら……!!」
頭の中にイメージしたそれは、ロボットアニメでよく見るビーム砲だった。某ロボットアニメでは必要な電力を日本中からかき集めたという話だが、天地創造の力を持ってすれば、それを掌サイズで再現可能だ。
「荷電粒子砲。受けやがれ!!」
征の右手から光が放たれる。掌から発射されたそれは、麗王の光を意にも介さぬ様子で弾き返し、そのまま麗王に直撃する。
「う、おお!?」
麗王の体は光に飲まれ一瞬で蒸発するが、すぐに体は再生を始めており、死んではいない。
「ぐ、お。あきらめないぞ、僕は! 僕は……!!」
屋上に落下し、ふらふらとした様子で征に向かってくる麗王。彼は、再生に力を使いすぎたのか、先ほどまでのような神々しい気配はなかった。
『まがいものとはいえ、神の力を失っているようね。あの様子では再生も攻撃もできないはずよ。さあ、ボウヤ。トドメを刺しなさい。そして、『王』の言玉を奪いなさい』
「殺すつもりなんかない。『王』の言玉にも興味はない。オレが望んでるのはたった一つ」
「僕に……僕に『天』をよこせええええ!!」
狂ったように迫る麗王に対し、征は小さく息を吸い込むと一気に駆け出した。
「みんなに両手を付いて謝れ!!」
征の拳が繰り出される。その一撃は麗王の顔面に直撃し、右目に埋め込まれていた『王』の言玉はころころと屋上に転がった。
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