第18話 命VS龍
龍ヶ峰は舌なめずりをすると、愛しそうに翼をなでた。
「気が合うね。オレも異能力バトルは大好きだよ。もっとも自分でそれをやるハメになるとは思わなかったけどさ。でもいいのか? そんなべらべらしゃべって」
「いいの。だってセンパイは、ここであたしが殺すから」
「そうは行くかよ!」
先手必勝。両手に宿った炎に包まれた拳を引くと、今度は左右同時に突き出し二つの火炎弾を放つ。
「またそれ? つまんないね、センパイ。もっと激しいプレイであたしを楽しませてよね!」
龍ヶ峰はそれをかわすでもなく、突っ立ったまま笑う。そして、正面から直撃を受けた。
「……なるほどね。たぶん今のオレ、死亡フラグばきばきに立ってるな、こりゃ」
龍ヶ峰は無傷だった。事態を把握すると征はすぐに次の行動に出る。
「飛び道具はナシだ。今度は直接ぶち込む!」
間合いを詰め、征は炎を纏った拳を龍ヶ峰に向けて放った。
「おおおおおおおおおおおお!!」
征の右の拳が龍ヶ峰の右腕に直撃する。瞬間、強烈な衝撃が彼女の体を伝い、地面にメキメキとヒビを入れた。
「可愛い女の子殴るなんて、ちょっとヒドイんじゃない、センパイ?」
龍ヶ峰は無傷だった。硬い鱗は想像以上の防御力を誇り、土屋の土壁の比ではない。
「はあ? そりゃどこの可愛い女の子だよ? オレの知ってる可愛い女の子は翼なんて生えてねーし、校舎を一撃で真っ二つにしねーよ!!」
もう一撃。さらにもう一撃。龍ヶ峰の体をえぐるように放たれた征の拳は、ダメージ0のようだった。
「ハア、ハア……くそ!」
荒い息を吐きながら間合いを取ると、征の頬に大粒の汗が流れる。
「もう終わりなの、センパイ? もっとあたしを満足させてよ? そんであたしを気持ちよく逝かせてみせてよ?」
「くそ、まだ!」
立ち上がり、もう一度火炎弾を放とうとした征。だが、炎は両手から消え失せ力が急に喪失していく。
「言玉の力が……。やっぱ2つ同時ってのは負担がでかすぎるか」
「あは。終わりだねえ、センパイ。じゃあ、あたしがセンパイを逝かせてあげる」
龍ヶ峰は翼を広げると羽ばたき、重力から解放される。そして、屋上と同じくらいの高さまで飛ぶと、勢いよく征の頭上に急降下した。
「空まで飛んじゃうのね……ったく、つくづくとんでもだな」
「ばいばい、センパイ」
「そうはいきません!」
征の頭に爪が迫った瞬間、龍ヶ峰は横から不意打ちを食らい吹き飛んだ。
「いったあ……まったく、あたしとセンパイの逢瀬を邪魔するKYはどこの誰?」
「KY……の、意味は知りませんが……こう言えば早いでしょうか『龍』。『命』です」
いきなり征の目の前に刀を構えた命が姿を現す。刀の柄には『色』の言玉がはめ込まれていた。
「命!」
「大丈夫ですか、征? いきなり中庭のほうで爆発が起こったので様子を見に来てみれば……まさか、『龍』が現れるとは思いもしませんでした」
「そういえば、こんな破壊音なりまくりなのに、大騒ぎになってないな……」
「あは。そりゃ、『王』の仕業でしょ。この戦いをどっかで見てんだよ、あいつは」
龍ヶ峰はスカートに付いた土埃をぽんぽんと払い落としながら、命の前に出る。
「初めまして、『命』。正直、不老不死なんざに興味はないんだけど、あたしの邪魔するんなら遠慮なく喰うよ?」
「な、なんてはしたない! 上着を着なさい! そんな破廉恥なかっこうで殿方の前に出るなど! 妊娠してしまいますよ!」
命は龍ヶ峰の上半身を見ると、顔を真っ赤にしながら刀の切っ先を向けた。
「あは。そんなんで妊娠するワケないじゃん。それにあたし、センパイの子供ならオッケーかも」
「へ!?」
征は龍ヶ峰の潤んだ瞳に見つめられ、一瞬固まる。
「な!? どうやらあなたとは、相容れないようですね『龍』」
「だったら、どうした『命』」
命と龍ヶ峰の間に緊張した空気が張り詰める。一触即発の状況をぶち破ったのは、龍ヶ峰の右手だ。
「同じ十二至玉でも、最低位の『命』であたしを、四位にある『龍』が、殺せるか!!」
翼を広げ、音を置き去りにしたような速さで龍ヶ峰が踏み込む。
「早い!? これが、『龍』の……!」
「だけじゃないよ、『命』!!」
「っ……!!」
龍ヶ峰の右手が命の右脇をかすめる。直後、命の制服の右脇にじんわりと赤い血がにじんだ。
「く!」
すぐさま命は刀で龍ヶ峰に反撃を試みるが、刀身は龍の鱗に触れた瞬間、粉々に砕け散る。
「ダメだよ、『命』。普通の武器じゃあたしに傷なんか付けられない。あたしを殺したきゃ、バルムンクだか、ネイリングだか、天羽々斬みたいな龍殺しの魔剣を持ってくるんだね」
「命! 逃げろ!」
「逃がすわけないじゃん」
龍ヶ峰は舌なめずりをすると、右手を真一文字に振り払った。
「あ!」
命の制服が破けちり、胸から下腹部にかけて切り裂かれ、赤い液体が噴水のように飛び散る。
「命!!」
「大丈夫、です!」
命の体に付けられた傷は、切り裂かれた事実がなかったかのように、一瞬で回復する。
「私は死なない。いえ、死ねない。この、『命』がある限り……!」
すり傷も完全に消え失せ、命は龍ヶ峰に向かって歩き出した。
「ふーん。すっごい生命力。けどさ、それって……」
再び龍ヶ峰は右手を閃かせた。今度は十字にクロスし、命に向けて斬撃を飛ばす。
「ただのサンドバッグじゃん!」
命はそれをよけようとするが、完全にかわしきれず右の太ももに直撃した。
「一家に1人、ストレス解消に欲しいよねえ!!」
「もうやめろ、龍ヶ峰!」
命のスカートが破け、ちらりと見える下着。征はそれに気を取られることなく命と龍ヶ峰の間に立った。
「征! あなたは逃げてください。私なら、大丈夫です。死ぬことはないんですから……」
「バカ言ってるな! 死なないからなんだってんだよ! 目の前で、オレの大事な人が傷付けられて黙ってられるか!」
「あは、センパイ、やっぱいいね。惚れそう。ってか、惚れた。正義の味方かっちょいい。あたしも守ってもらいたいなあ。センパイみたいな王子様に」
右手に付いた命の血を振り払うと、龍ヶ峰は邪悪な笑いを浮かべる。
「真紅の居場所を聞いたらずらかるつもりだったけど、気が変わっちゃった。そこの『命』。あたしがもらうよ。その後でセンパイも食べてあ・げ・る」
翼を広げると、龍ヶ峰は太陽を背にして両手を広げる。
「心臓を潰すか、脳天砕けば、『命』つってもやばいでしょ? だからセンパイ。早くそこ、どいて」
重力による落下のエネルギー、そして自身の翼の運動エネルギーで迫る龍ヶ峰。
征は命を背にしたまま動かない。動くつもりもなかった。それは、一つの賭けだった。
「極度のストレスや命の危険が迫ったとき。至玉は自らが認めた所持者に対して姿を現す……。龍ヶ峰、お前はさっきそう言った。そして、言葉麗王はオレを『天』の少年と呼んだ。オレには『天』を手にする資格と資質があるらしい」
征は龍ヶ峰に向けて……さらにその先にある天へ向けて手を伸ばした。
「なら、オレの前に姿を現せ、『天』!!」
征の言葉が天に届いたのか、それとも偶然なのか。征は龍ヶ峰の攻撃を受けても無傷で済んだ。なぜならば。
「これが、『天』の言玉……?」
姿を現した『天』。突然の事態にその場にいた3人は一瞬、我を忘れる。
『私は、天』
征の知る限り、今まで言玉は小さなガラス玉ほどの大きさの物で、声など発することはなかった。そしてなにより……人の形を成していなかった。
「これが、『天』の言玉?」
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