第13話 女の言玉
「土屋、女は任せた。適当に痛め付けて、あとで一緒に楽しもうぜ?」
「おう。ポニーテール萌えだよなあ」
風間が乙女の体を見ていやらしく笑うと、それに応えるように土屋は唇の端を釣り上げ、乙女に向けて土の塊を飛ばす。
「有言実効、だよ!」
乙女は技の言玉を手に取ると口早に叫び、ポニーテールを結っている髪飾りにそれを取り付けた。そして、向ってくる土の塊を超人的な跳躍力で空を舞い、かわす。
「先輩にはちゃんと敬意を払いなさいよね、1年生!」
「先輩後輩とかうぜーんだよ。強い方がえれーんだよ!」
乙女は空中から土屋を強襲する。技の言玉で強化された身体能力により、まるで戦斧で叩き斬るようなカカト落としを繰り出すが、土屋の作り出した土壁によって阻まれノーダメージに終わる。
「じゃあ、わたしのほうがえれーね!」
続く第二撃。乙女は体を空中で一回転させ、回し蹴りを放つ。少女のスカートの下から伸びた白い足は轟音とともに土の塊をえぐるが、それでも土の防御を突破できない。
「無駄だっての! 女の力で俺の土壁を壊せるかよ!」
絶対の防御に土屋は勝利を確信し、顔を歪ませよだれを垂らす。
「みたいだね。でも、わたしは力で勝負する気なんてないよ! だって、乙女だもん!」
乙女が土屋の顔面に向けて蹴りを放つと、土屋は再びそれをガードする。
「無駄だって、わからねえのか――よ!?」
「そう、無駄だよ」
一瞬で勝負は付いていた。蹴りをフェイントにして、最大速度で背後へ移動。そして土屋の反応速度が追いつかない速度で、後頭部に蹴りを一撃。
「君の動きはもう見切ったもの」
「う、お……!」
「遅すぎるの。それじゃ乙女の柔肌には触れられないよ?」
「土屋!」
土屋は乙女の蹴りを受け気を失い、屋上の床に倒れこんだ。
「風間。あとはお前だけだな」
「てめえら! マジ調子こいてんじゃねーぞ。おれの風をナメんな!」
激昂した風間は屋上全体に突風を巻き起こし、征と命、賢見を吹き飛ばした。
征は必死で風に耐え、なんとか反撃を試みようとするが前に進むことができない。
「くそ! なんてムカツク風なんだよ! 勘弁して欲しいぜ。オツ、そっちは大丈夫か?」
「や、やだ。スカートめくれちゃう! なんなのこの風~!」
乙女はスカートの下の聖域を見られまいと、必死になって抑えていた。
「いいぞ、もっとやれ!」
「ちょ、ちょっと天ちゃん!! どっちの味方なの! ひゃあ!?」
風間の風が一層力を増し、乙女のみを襲う。邪な風はスカートをめくり、ピンクのフリルが征と賢見の目の前にその姿をさらした。
「わ!?」
賢見は顔を真っ赤にして背け、もじもじする。
「へへへへ。そそるもんはいてんじゃねーか、先輩。はやくそれ、脱がしてやるよ」
風間は乙女がスカートを抑えているのを見て、集中力を切らしたのか、風の力が急に弱くなる。
「スキありだぜ!」
征はそれを好機に、一気に風間との間合いを詰めた。
「しまった!?」
「お前のエロい風は、オレがもらう!」
「ぐ!?」
征の拳が風間の腹に直撃する。しかし、風の膜に遮られ決定打にならなかった。
「土屋ほどじゃねーが、おれにも防御の手段はあるのさ、へへ。お前のパンチの威力を軽減するくらいにしかならねーけどな」
風間は足元に風を集約し、3メートルほど浮遊して校舎の外へ移動する。
「ち。賢見はあきらめるか。龍ヶ峰の奴に頭を下げるのは気が引けるが……せっかくもらった言玉を取られたくないし……逃げるか。じゃあな」
捨て台詞を残し、風間は逃げ去ろうとする。
「くそ、逃がすかよ!」
「天ちゃん、これ!」
乙女は気絶している土屋の掌から言玉を奪い取ると、征に向って放り投げた。
「土の言玉か。これなら……!」
グローブから力の言玉を取り外し、土の言玉をセットすると征は叫んだ。
「よし、有言実効!」
「こいつ、土屋の言玉を……」
征の右手に土の塊が蛇の様にうねり、収束する。
「逃がすかよ!」
まるでムチのように風間にむけて土の塊を放つと、あっという間に風間の体を捕縛して自由を奪った。
「畜生!」
征は風間を屋上に手繰り寄せると、土屋の隣に降ろす。
「と・り・あ・え・ず~。1年生くん? わたしのスカートを風でめくった代償、お支払いいただきましょーか?」
「うぼ!? やってることが……乙女じゃ、ねえ……名前詐欺だろ……うぼ!?」
乙女が思い切り風間の顔面に拳を二撃入れると、鼻血が屋上を舞った。
「これでヨシ」
「……風間、かわいそうに。だがお前の言玉はオレが有効利用してやる。安らかに眠れ」
征はなんまんだぶ、と手を合わせて祈ると風間から『風』の言玉を奪った。
「ところで天ちゃん。それを使って何をするおつもりで?」
「オツ。決まってるだろ? この風の力で、言葉麗王をぶったおす以外にどんな使い道があるっていうんだ?」
「女の子のスカートめくるとか。女の子のスカートめくるとか。女の子のスカートめくるとかでしょ! だからこれは没収!」
征は『風』の言玉というロマンの塊を奪われ一瞬愕然とする。
「お、オレの夢が……」
「女子にとっては悪夢です! ね、あなたもそう思うでしょ! 同じ女として許せないよね!」
乙女に迫られ、賢見は顔を真っ赤にしてもじもじする。
「いえ、あの。その……僕は……違うんです……うう」
突然賢見は泣き出し、自分の体を抱きしめてうつむいた。
「どうしたの? どこか痛いの?」
「僕、僕は……男、です」
「え? 何言ってんのー。どっからどう見てもかわいい女の子じゃない! 胸だって、わたしより大きいし!」
「ひゃあ!?」
乙女は賢見の胸を鷲掴みにした。
「どれどれ、オレも確かめてあげよう」
征も賢見の胸を鷲掴みにしようとしたが、乙女から殺気を感じて慌てて手を引っ込めた。
「嘘じゃないんです! 僕は1年2組男子出席番号5番賢見真紅なんです!」
賢見はジャージのポケットから生徒手帳を取り出し、それを征と乙女に見せる。そこには男子の制服を着た賢見の写真が貼られていた。
「え? え? え? どういう、こと? だって、女の子だよね? え?」
乙女はもう一度賢見の胸を鷲掴みにして、首を傾げまくった。
「どれどれ、オレも確かめて……いや、何でもないっす、はは」
征も懲りずに賢見の胸を鷲掴みにしようとしたが、乙女から殺気を感じ、慌てて手を引っ込めた。
「あ。もしかして……『男』の言玉があるってことは……」
征は先ほど命から聞いた『男』の言玉を思い出し、手をぽんと叩いた。
「そうです。僕、『女』の言玉で……こうなっちゃったんです!」
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