第9話 王の命令
「これからどうするの?」
校門を出て少しした所で、時任は2人の顔を見て尋ねる。
今日の授業はホームルームと身体測定だけだったので、午後はフリーだ。さっきまでのゴタゴタのせいもあってか、時刻は午後3時になろうとしていた。
「お昼をどこかで食べたいところですが……私はコンビニを希望します」
「いやいや、昼もコンビニはイヤだよ。でもまあ、ジュースでも買おうかな。そんじゃとりあえず、コンビニ行く?」
「うん!」
征の提案で朝と同じコンビニへ行くことになり、3人は仲良く横一列になって歩き出した。
やがてコンビニに到着すると、征はジュースを買って2人より一足先に外へ出る。
「天ちゃーん、元気!?」
ペットボトルのキャップを外していざ飲もうとした所で、部活中の乙女がランニングしている場面に遭遇した。
「おお、オツ。お前は昼も無駄に元気だね」
「根性と熱血でごはん3杯はいけるよ! ていうか、その呼び方何度目よ! わたし、乙女なんだから!」
「はいはい、ごめんよトメさん」
「トメさん言うな~~!! んもう、これは没収! 慰謝料として乙女さんがいただきます!」
「あ、おい!? オレのジュース! 返せって! それが乙女のやることか!」
「へへ、もうもらったもんね! こっちこっち。あ――」
キャップが空いたままのペットボトルを振り回していたら、こうなる結果はすでに見えていたはずである。
「てめえ。どういうもりだ……ああ!?」
ペットボトルの中身は空中に飛散し、偶然近くを通りかかった男子生徒の顔面に降りかかったのだった。
「3年の、小林……。暴力事件起こしたっていう……」
金色に染めた短髪の男子生徒は、乙女を睨んだ。
「おいこら、2年。先輩に向って呼び捨てとは良い度胸だな、ああ? 体で慰謝料払うか?」
小林は汚らしい目で乙女の太ももを見ると、舌なめずりして笑う。
「い、いや……」
乙女は真っ青な顔になって、うつむいた。
「オツ。お前向こう行ってろ」
「え、でも。天ちゃんは何も悪くないし……」
「いいから! オレの買ったジュースなんだ。オレが責任持つ。小林先輩、許してもらえませんか?」
征は乙女を押しのけ、小林の前に出る。
「へえ? お前、イケメンじゃん? じゃあお前でいいや。ちょうどサンドバッグが欲しかったんだ。ツラ貸せよ」
「……はい。その代り、こいつには手を出さないでください。お願いします」
「天ちゃん!」
「いいぜ。男同士の約束だ」
征は小林に襟首をつかまれ、今朝がた命に言玉の説明を受けた公園にまで連れて行かれる。
「ここなら存分に楽しめるよなあ、サンドバッグくん?」
なんとかこの場を切り抜けなければ。征の背中に嫌な汗が流れる。
「いやあ。ちょうどよかったよお。今日、マジでむかつくことがあってさあ。女とヤルか、男を殺るかどっちかしたかったんだけどよ。両方できそうだわ。お前ボコったあとで、さっきの女もおいしくいただいてやる」
小林は舌を出して、汚らしく笑う。
「ちょっと待て! 男同士の約束はどこ行ったんだよ!?」
「ああ? バカですかーお前は? そんなもん破るに決まってんだろーが、ボケ。そこ動くなよ、サンドバッグ?」
小林の拳が空を切り、征の顔面に迫る。
征は目をつむり、静かにその時を待った。
「暴力はいけないよ、君」
「なんだ、てめえ!?」
おそるおそる目を開けてみると、目の前に男の背中があった。年の頃は20歳前後。長い髪で右目が隠れている。
男は小林の拳を片手で受け止め、優しそうに微笑みこう言った。
「彼は、『天』の少年……大事な人材なんだ。君のようなゴミとは違う」
「ご、ゴミだと!?」
「僕はね、この世界には2種類の人間しかいないと思っている。僕に従う者か、僕に逆らう者……君はどちらだろう? まあ、ゴミはゴミか」
「誰がゴミだ! 頭イカれてんじゃねえのか、てめえ! ふざけんな! ぶっころしてやる!」
血液が沸騰寸前になって、小林は一直線に男へ殴りかかった。
「王に弓引く愚か者め。死ね、これは命令だ」
男の一声で小林は動きを止め、頭を垂れる。
「そうだな。そこの横断歩道で人間ミンチなんていうのはどうかな? うん、それがいい。君のようなゴミには相応しい末路だ! アハハハハ!」
男の狂気を含んだ笑い声を背に、小林はゆっくりと公園の外へ向けて歩き出した。彼の歩む先には、赤信号の横断歩道がある。
「お、おい?」
「彼は王に逆らった報いを受けなければならない」
征は慌てて小林を追った。
「おい小林! やめろ、死ぬぞ!」
小林に追いついて彼を止めようとするが、なおも止まらず道路へ出ようとする。その時、遠くからトラックが迫ってくるのを征は察知した。
「待ってくれ! 止まってくれ!!」
征は小林より先に道路へ飛び出し、手を振って止まるように求めるが、トラックは逆にスピードを加速させ、殺意の塊となって征の目の前に迫る。
「くそ! 有言実効!」
すかさずグローブを装着し、力の言玉を発動させると征は迫ってくるトラックに向って右手を差し出した。
「止まれえええええええええええ!!」
右手でトラックを受け止めるが、勢いは殺せず、数メートル押しだされる征。
「……ふう、なんとか止まった……」
小林の目の前でなんとか止めることができ、惨事は免れたものの、男が再びやってきて征は身構える。
「君の為を思ってのことだったんだけどね。いらないゴミはゴミ箱へ。小さな子供でもわかる理屈だ。街はキレイにしないと」
「目の前で人間ミンチなんて見たくねーよ! そりゃ、こいつはむかつくけどさ。何なんだ、あんたは一体!」
男が顔の右半分を覆っていた長い髪をかきあげると、そこには眼球の代わりに、『王』と書かれたガラス玉があった。
「僕は言葉麗王。十二至玉『王』の所持者。つまり、人類全ての王だ」
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